詩抄少女

灰出崇文

序文

 灰出君、君の文章は時代遅れだ。君が吐く言葉、歌う歌、愛する音、全て過去の遺物である。美しい韻文も君の口から出ると陳腐なメロディになる。

 君はいつでも独りであった。人に囲まれながら人を遠ざけ、君の敬愛するかの大詩人のように孤独に打ち震えている。君はしなびきった薄命男だ(ともすれば君はこの表現を喜ぶかもしれないが)。若い女の肌に触れずして肉を描き、恋を知らぬまま恋に恋する悲しい男だ。

 灰出君、そんな君を私は愛する。

 君の言葉に向き合う姿勢はとても美しかった。一文字にこだわり手を加え続ける姿は詩人のようであった。事実君は詩人であった。君の小説は黒曜石のように鋭かった。

 君が死した今、ようやく君の小説が出る。君の小説に序文をつけられることを光栄に思う。


十月某日 主なき部屋で

桑瀬ふじ子

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