(3)
噴水の前には小さなテーブルがあった。何やらパネルのようなものがついている。そこにはバラバラになった絵が映っていた。
「これパズルですかね」
試しに触ってみると絵が動いた。なんとかいじりまくってパズルを完成させると、そこに現れたのは、執事服を着たカエルがエッグパイを持っていく写真だった。
「あらまぁ、この子が持っていっちゃったのね」
「この写真を見せれば……あ、でも」
「どうしたの?」
「これを見せたら、このカエルの首がハネられちゃうんじゃないですか?」
「……そうね」
カエルの変わり果てた姿を想像しそうになって頭を振る。訴えるように視線を送った。
「分かったわよ。タケルちゃんはお人好しね。嫌いじゃないわ」
「……ありがとうございます」
「でも、まだ証拠になりそうなものあるかしら」
写真はプリクラのように下から出てきた。それを手に取ると、何か重なっていたらしい。ひらりと一枚紙が舞った。
「これは……エッグパイの作り方?」
「あら、いきなりね」
「作れってことですか? 材料も道具も……そもそもキッチンも見てないですけど」
「どっかで集めてくるのかしら。また迷路?」
何気なく空を見上げた時だった。
――お困りかにゃ?
「この声はっ」
「いつかの猫!」
しかし姿は見えない。キョロキョロと辺りを探す。
「ほうほう、あの子が捕まったのか」
いつの間にか、噴水の上に乗っていた。
「このパイを作りたいんだけど、材料とかあるのか?」
「パイはダメだよ。王子様が好きじゃないんだ。だってパイがあったらあの子を取られてしまうから……しかしあの子を助ける為なら、王子様も了承するだろうね」
「なんの話だ?」
「ふふふ。とにかく、ドードーから卵を分けてもらうんだな」
「それってどこにいるの?」
「ほとんどのドードーは牢に捕まっているよ」
「城の牢屋か? そこぐらいしかなさそうだし」
「ご名答。それでは行っておいで……少年」
「なんかお前さっきとキャラ違くないか」
「そんなことないにゃあ」
ペロリと舌を出すと、猫らしく毛並みを整え始めた。
「まぁいいや。行きましょうか」
こんなに簡単に教えてくれるなら、迷路で悩んでいた時も来て欲しかったけど……。もしかしたら偶然に見えて、全部初めから決まっていることなのかもしれない。
お城の裏まで行くと、一回見ただけでは気づきにくい扉があった。壁の色と同化している。軽く押してみると、意外にも簡単に開いた。鍵はかかっていないみたいだ。
中は薄暗く、冷気が漂っている。鉄格子がある、なかなか本格的な刑務所のようだ。灰色の廊下は寒々しい印象を覚える。ホラー映画にでも出てきそうな檻の中には、何も入っていない。
「ここで間違いないと思うんだけど……」
突き当たりに差し掛かった時だ。ピキャーギャー! ンギャー! 一斉に鳥が鳴き出した。甲高い声が響く。
「う、うるさい……っ」
ぎゅうぎゅうに何十匹も閉じ込められた牢の中で、それぞれが主張するように飛び回っていた。
「ちょっと! どうにかならないのかしら」
「とりあえず卵! 卵落ちてませんか」
「んー、奥の方に一個ない?」
よく目を凝らすと、確かに白いものがある気がする。でもバタバタと飛び跳ねている中に腕を伸ばしたら、怪我しそうだ。
「なんでこんなに騒いでるんだ……」
「もーう、あんた達の首もハネちゃうわよ」
「……あれ?」
その一言でギャーギャー騒いでいた鳥達は、嘘みたいに静かになった。よっぽど女王が怖いのだろうか。ちょっと可哀想な気分になりながら、卵を取った。
「あの子達どうなっちゃうのかしら……」
鳥の横を抜けて先に進むと、もう一つ部屋があった。黒い扉の中は、小さな厨房になっている。
「お、ありましたよキッチン」
「可愛いところね。カントリーな感じ」
庶民的な雰囲気だ。城とはいえ地下だから、そんなに使わないのかもしれない。
「なんだこれ?」
部屋の隅っこには、俺の身長ぐらいまである胡椒挽きがあった。何の為に作ったんだろう。
「あの……それで」
問題はここからだ。もちろん俺がお菓子作りなど、できる訳がない。
「タケルちゃん」
「やっぱり無理ですよね」
「あたしに言ってるの? もちろん……できるに決まってるじゃない」
「えっ、本当ですか!」
「ええ、任せなさいよ。タケルちゃんも、あたしの腕に惚れちゃうわよ」
「はは……まぁ俺料理できないんで、助かりました」
「今時、料理の一つもできなきゃモテないわよぉ」
冷蔵庫に残りの材料が用意してあった。器具類も充実しているので、レシピ通りに作り始める。俺もりょうさんの指示に従って、簡単な作業を少し手伝った。そして数分後……。
「おぉ、それっぽい!」
良い匂いが部屋中に漂っている。オーブンから取り出すと、黄金色に輝くエッグパイが現れた。
「凄いじゃないですか! お店レベルですよ」
「ふふ、レシピがとっても簡単だっただけよ。まぁそこまで褒められると、悪い気はしないわね」
「じゃあルリカのところに行きますか」
焼き上がりを食べたい気持ちを堪えて、カゴに詰めた。
再び城まで戻ってくると、ルリカは女王と話していた。
「ほら、あんたの番よ」
「ダウト」
「……あーもう! また見破られた! そうよ違うわよ! 何回目よこれ? あんた強すぎー、子供のくせにっ」
二人はトランプで遊んでいたようだ。
「んー、あれぇ……なにこの匂い?」
「ちょっと忘れてるんじゃないわよね」
「あ! わ、忘れてなんていないわよ……フン、わざわざ戻ってくるとは……その度胸ぐらいは認めてやってもいいぞ」
ここまでブレてもなお、キャラは押し通すらしい。
「ほらあんたが食べたいって言うから、パイを作ってきてあげたのよ」
「別にー頼んでないけどー。どぉーしてもっていうなら食べてあげてもいいわ」
ふんぞり返った態度で座っている少女、いや女王にパイを手渡す。それをじろじろ見てから一口齧った。
「……おいしい」
「やりましたね! りょうさん」
「ふふ、当たり前よ。それでルリカちゃんは返してもらえるのかしら」
「ああ、わらわは満足したぞ。勝手に持っていくがいい」
部下の兵隊が鳥かごの鍵を外した。
「ではな、ちびっ子!」
笑顔でパイを食べながら、こちらに手を振っている。周りにいる他の動物や兵隊達も、心なしか和やかな雰囲気だ。これで、二つ目もクリアかな。
ピロリーン――おめでとうございます! 見事謎を解かれた貴方へ
問題4
キーワード「め」
問題1
海に浮かぶは幻の島
潮の風を感じながら宝物の在処を
人魚と海賊の秘めたる歴史
地図は君の手に
ヒント 洞窟の主
「はぁー、結構あちこち行きまくって大変だったなぁ。ん、ルリカどうかしたか?」
「パイ……食べたかった」
むすっとふくれた顔で言うので、りょうさんと一緒に笑ってしまった。
「あんなのいつでも作ってあげるわよ」
「それにしても、りょうさんがあんなに上手いとは驚きでした」
「ハート掴むには胃袋がっちり掴んじゃうのが一番だからねぇ。まぁ、あたしは自分の為に始めたんだけど」
「そうなんですか?」
「そうそう。美味しいもの食べたいけど、外食じゃ高いでしょ? サービス料とか余計なもの取って……それなら家で作ってやろうと思って、一時期ハマってたのよ」
「なるほど。じゃあお菓子以外のものも得意なんですか」
「どうかしらねぇ。タケルちゃん食べに来ない?」
「行き……あ、あーそういえば次は海みたいですね。ガラッと雰囲気が変わりそう」
「ふふ、照れ屋さんなんだから。人魚と海賊ね……良いわ、燃えてくるわね。こうザッパーンと、愛と情熱のラブロマンス!」
「確かにロマンスはありそうですね……」
「人魚姫」
ルリカがぽつりと呟いた。
「人魚姫、好きなのか?」
首を曖昧に曲げた。
「ん? どうしたの」
何か言いたげだったけど、何でもないとこっちの手を引っ張った。
その時またトランプが一枚落ちてきた。顔にダイレクトアタックだ。鬱陶しいカードを剥がして裏を見てみる。それはジョーカーだった。
「あっ……」
そしてそれもひらりと、どこかへ舞っていった。
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