(1)
キーンとマイクのノイズが響いた後、沈黙が走った。力強く説得した総理が表情を変えないまま動かなかったので、時が止まったのかと思った。
「……おい? 何か答えないか!」
痺れを切らした総理が前のめりに立ち上がったが、遊園地側からの反応は何も無い。苛ついた様子で机を叩いた。
「……ふん、仕方ないな」
一度座り直し指を組むと、目を閉じた。息を吐いた後ゆっくり目を開くと、そのまま人差し指を一本こちらに突き刺した。
「今から遊園地を破壊する。その場にいる者達は一時間以内に安全な場所へ移りなさい。只今飛行機を手配した。様子はへリから伝えろ!」
病院内も何事かとざわつき始め、画面にはあっという間に何台もの飛行機が飛んできた。起きていることが映画のようで、現実味がない。
あっという間に人がみるみる減っていき、上空からの映像が映し出される。上から見て気づいたけど、この遊園地の周りは何もなかった。土地一帯を買い占めたらしい。無人島のようなところだから土地も広げられるし、騒音などの被害になることも無さそうだ。反対の意見が少なかったのも、これのおかげだろう。
「何だこれ……」
辺り一帯に人がいなくなってから、妙な音が聞こえてきた。ガシャーンガシャーンと鳴るそこから現れたのは、映画に出てくるようなどでかいロボットだ。
堂々と歩いてくるその様子に思わず力が抜けて、椅子にぺたんと座り込む。右手にすっかり冷えたコーヒーがあったけど、もうどうでもいい。
もしかすると世界の終わりってこんな感じなのかな、なんて。よく分からない内に、光に包まれるように全てが消えていって……。
しかしこんなものをどこで作っていたのか。もう何が起きても驚かないぞと開き直り、アクション映画を見ているんだと言い聞かせて画面を覗く。
おお、ロボットが足から火花を出して浮き上がった! そのままゲートの上を通過して……中に入った! 第一関門突破だ。凄いぞ! それからすかさず、黒に包まれている丸い塊に手を振りかざす! コンッ。明らかに似合わない、軽い音が鳴った。
「……えっ」
しかしロボットの手は崩れた。パラパラと砂のように落ちていく。ロボットが脆いのではないだろう。あっちが強すぎるんだ。そんなに硬い物質があるのか……。
その後も腕を飛ばしたり、ビームを出したり、ロボットは頑張って戦っていたけど、あっという間に戦闘不能になってしまった。そんなとき再び、あの人の画面に切り替わる。
「……これでもダメなのか。では仕方ない。本当に返事をするつもりはないんだな? では最後の手段といこうじゃないか。使いたくはなかったが……ここに、ミサイルを打つ」
ミサイル。それが実際打たれたらどうなるのかは想像がつかない。周りの土地は広そうだけど、一応国内に撃つんだ。何か間違えない限り、さすがにこちらまで被害があるとは思わないけど、本当に大丈夫なのか?
最高の部隊を用意した! 歴史上一番の戦いだ! 俺が偉人になる! などと豪語している総理は、完全に頭に血が上ってしまっている。前から変な人だとは思っていたけど、まさかここまでだなんて……。
それから万が一に備え色々想定した上で、二時間後の午後五時に行うと宣言すると、首相からの映像は途切れた。
何かしておくべきことはないかとか、やらなきゃいけないこととか考えたりもしたけど、結局まばたきを繰り返すことぐらいしかできなかった。突然そんなこと言われてもついていけない。
二時間後なんてあっという間だった。抜群の部隊(らしい)の準備が整う。隣にはいつの間にか祈ってるお爺ちゃんや、子供たちが身を寄せ合っていた。俺も固唾を呑んで見守る。
「発射十五秒前…………三、二、一……発射!」
随分上空からの映像なのか、画面が荒かった。ぼんやりと黒い塊を映している画面が大きく揺れる。音は出ていないけど、発射音が想像できた。鉄の塊が遊園地に向かって、真っ直ぐ突っ込んでいく。
あれ? こんなことしたら中の人は……。
スローモーションに思えたその映像はやけに長かった。遊園地の天井付近へ近づいて弾けたかと思うと、破片がパラパラと落ちていった。僅かに上にかけていた黒い布が燃えて中の銀色が見えていたが、その表面には傷一つ付いていない。
きっとこの時、世界中が静まったに違いない。鳩鉄砲を食らったような総理の肩を秘書らしき男が叩いた。口をぱくぱくさせながら魂が抜けた顔で、また作戦を練り直すと答えて終わった。
総理にとっては思い出したくない黒歴史となった出来事は批判の嵐だったけど、すぐに騒がれなくなった。因みにミサイルというのは脅しで、実際は小さめの爆弾のようなものだったらしい。
あれからどこか気の抜けてしまった国民は、ぼうっと過ごしていた。あんなものを見せられて何ができるというのだろう。出てこない人たちを思うと心配ではない筈はないのだけど、あまりにも相手が強すぎた。
それにわざわざ急がなくても、明後日にはオープンするんだ。あの扉が再び開くなら何とかなるだろう。色々考えたけど、結局それまで待つことにした。それしかできなかった。
しかし本当にオープンはするのだろうか。誰も帰ってこない、もしかしたら帰って来られない場所に自ら出向くのは、かなり勇気がいることだと思う。それでも入りたい奴は……いるんだろうな。
じゃあ中に入った人たちは? アイツらは何をしているんだ。お前たちが閉じ込められたその中には、一体何がある?
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