Empty land
膕館啻
Empty land
昼下がりのボートの上で
草花が揺れ、遠くの方で小鳥の声が響いています。
静かに風が流れるのを待つ――そんな森の奥に、小さな湖がありました。
ぽっかりと空いた木々の間から差し込む柔らかな陽が、二人を照らしています。
小さな湖はさざ波を立てて、ペンキのハゲた小舟を揺らしていました。その上では少年が大きな欠伸を一つして、寝そべっています。
「やっぱり湖は気持ちいいね」
その言葉に、隣で花をいじっていた少女が振り返ります。
「お兄様ったら寝てばっかりじゃない! たまには追いかけっこなんかもしたいのに……こんなの退屈だわ!」
不満げにぷいっと手放してしまった花を見つめ、少年は言いました。
「でもほら、見てごらん。水がキラキラ反射して綺麗だよ。ここは森の奥だから誰も来ないし、時々聞こえる鳥のさえずりだって……」
「もうお兄様ったら、いつも同じことばっかりなんだからぁ!」
「おっと……」
少女が立ち上がったことにより揺れた舟を押さえ、それが収まってから落ちた花を拾い、目の前でぷくりと膨らんだ頬を指で突きました。
「ほらそんな顔をしないで。せっかくの可愛いのが台無しだ」
少女の柔らかなブロンドを撫でながら、ペンを取り出しました。
「それじゃあ昨日のお話の続きをしてあげるよ」
「本当? 早く聞きたいわ」
コロコロと表情を変える少女の横で、少年は本の真っ白なページを開きました。
まだ午後は始まったばかり。それが永遠に続くように、周りの木々は二人を閉じ込めるように囲みます。
誰も入れない秘密の場所で、笑い声は響き続けていました。
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