家族ってなんなんだろうね
「まったく、エンディミオンのおかげで私の出番はほとんどなかったな」
さくらの職場復帰を三日後に控えて、アオがしみじみとそんなことを言った。
確かに、ミハエルと一緒に
すると、ミハエルが言う。
「たぶん、それがエンディミオンの本来の姿なんだろうね。彼にはそれだけの適性があったんだよ。
彼は元々、気性の優しい人だったんだと思う。だけど彼の境遇がそれを許さなかった……
「そうか……そうかもしれないね……
それだけに本当に悔やまれるよ……どれほど彼が恵莉花や秋生に愛情を注いでも、犯した罪は消えない……過去はなかったことにならない……
命を蔑ろにしてたら誰も幸せになれないっていうのを改めて教えられた気がする……」
ミハエルの言葉を受けて、アオがしみじみと応えた。
なお、恵莉花と秋生の出生届を出しに行ったのはアオである。さくらはそれどころではなかったし、見た目には十歳くらいの子供にしか見えないエンディミオンが届け出てもさすがに変に思われるだろうということで。
それが受理されて二人に戸籍ができるとなった瞬間、アオは泣いていた。ただ単に書類上のことのはずなのに、形だけのことのはずなのに、その<形>がこれほどまでに大切なのかと思い知らされた。
これによって恵莉花と秋生は、誰にはばかることなく<人間>として生きていける。
確かに、親が<未婚の母>ともなれば色々言われたりもするだろう。そういう部分の<形>を整えられなかったのは悔やまれるところではある。けれど、世の中にはそもそもいろいろな事情を抱えた人間が生きていて、それが<社会>を形成しているのだから、個々の<事情>など、本来は些末なことのはずなのだ。そんなことであれこれ言う人間がおかしいだけだ。
それに、本当に幸せだったら他人のそういう細かい事情など気にならないのかもしれない。自分が幸せだという実感がないから、そういう事情を抱えた人間を見下すことで『自分の方がマシ』と思いたいのだろうとアオは感じていた。
自分の両親や兄が、まさにそれだったから。
身内である自分の目から見ていても、両親や兄が幸せそうにはまったく見えなかったのだから。
いくら経済的には裕福でも、体裁だけは整っていても、心がとても<貧しい>人達だった。
今はそれがとても悲しい。
あの人達を幸せにしてあげられない自分の無力さが悲しい。
「本当に、家族ってなんなんだろうね……」
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