結びの章
お前はいったい
自分の命の形をそのまま受け止めてくれる者達に出逢ってしまった以上、それまでと同じではいられなかった。それまでのように自身の命の形を憎み続けることができなかった。
吸血鬼などという化け物の血を受け継いでしまったダンピールというそれを。
しかし、だからこそ分からない。自分の父親となった吸血鬼が、なぜ、あんなことをしたのかが。
無論、人間にだってさくらのようなお人好しもいれば、エンディミオンを誘拐し身代金を得ようとたくらんだ輩もいる。それを考えれば吸血鬼にだって色々いて当然なのだろう。
だが、それでも分からない。
いや分からなくなってしまった。
かつては吸血鬼というのはそういうものだと思っていればそれでよかった。それでなんでも説明がついた。ついていた気がしていた。
なのに、今は分からない。
『お前はいったい、何がしたかったんだ……?』
自分の父親である吸血鬼にそう問い掛けてやりたかった。問い詰めてやりたかった。その上で、そいつが何かを答えたら全力で嘲笑ってやりながらバラバラに切り刻み、犬の糞と混ぜてヘドロの中へ捨ててやりたいと思っていた。
それがもう、どうでも良くなってきている。
「
退院して家に帰り、授乳に疲れたさくらが眠る三階の寝室のベッドに寄り添うように置かれたベビーベッドの中ですやすやと眠る二人を見ていると、自分の過去が幻のようにさえ思えてきた。
それでも、恨みは消えない。憎悪は消えない。そんな簡単なものじゃない。
けれど、そういうものを上回るものが確かにここにあるのだった。
その頃、さくらは自分の部屋でミハエルと一緒にお茶にしていた。仕事が一段落して寛いでいたところだ。
ミハエルが入れてくれた紅茶を飲みながら、アオは言った。
「私は正直、このまま、エンディミオンの父親である吸血鬼が見付からないでくれた方がありがたいと思ってる……」
それは、アオの正直な気持ちだった。
「物語として見れば、たくさんの不幸をばら撒いたであろうその吸血鬼を見付け出して復讐を遂げる方がきっと盛り上がるんだろう。そっちの方が物語的には正しい展開だと思う。
だけど私は、そうなってほしくないんだ……」
手にしたティーカップに視線を落とし、訥々と語った。
そんなアオに、ミハエルが応える。
「そうだね……エンディミオンは、今、幸せを掴んだ。そんな彼に復讐劇を演じさせるのは、僕も違うと思う……」
その上で、静かに、しかしきっぱりと言う。
「実は、僕も、知人の吸血鬼を通じてエンディミオンの父親のことを調べてもらったんだ。なにしろ僕達吸血鬼にとっても自分達の努力を蔑ろにされるような行いだからね」
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