命の形
『良かった……』
二人が生まれ、<ダンピールとしての匂い>がしてこなかったことで、一人、胸を撫で下ろしていたのだから。
たとえダンピールとして生まれていたとしても、さくらは気にしないであろうことは分かっていた。業腹ではあるもののアオとミハエルも気にしないだろうことも分かる。
しかし、やはり人間の社会で人間として生きるには、
<ダンピールという命の形>
はリスクが大きいことは紛れもない事実だし、何より、彼自身が、
『吸血鬼を憎しみ続けるのは、これはこれで疲れるしな……』
とも思う。
自分の子供にそんな重荷は背負わせたくなかったというのは素直な気持ちだった。
もっとも、それを口には出さないけれど。
口にしてしまうと、何か負けたような気がしてしまうから。
とは言え、さくらもアオもミハエルも、そういう『勝った、負けた』には拘らない。エンディミオンに負けを認めさせ、自分達が正しかったと笑いたいとは考えていない。
そんなことをされたらエンディミオンとしても反発せずにはいられなくなる。
アオ達は、それを分かっていた。そんな些細な満足感のためにせっかくエンディミオンが人間に会わせてくれようとしている努力を踏みにじりたくもなかった。
そういう人達だからエンディミオンも変われたのだろう。
ダンピールという呪われた命の形を持って生まれてきてしまった自分自身を受け止めることがようやくできたのかもしれない。
吸血鬼を憎まずにいられないのは、ダンピールに生まれついてしまった自分自身を何より許せなかった、認めることができなかったせいなのだろうから。
けれど、誰しも、どのような命の形を持って生まれてくるかを自分で決めることはできない。宗教などではそれを<前世の業>や<徳>といった形で説明しようとはするものの、誰もがそれで納得できるわけじゃない。
ましてやダンピールは神も仏も信じない。そういう類のものからは古来より<敵>と見做されてきたからだ。
<悪魔>
<怪物>
<不浄の者>
<外道>
<畜生>
<悪鬼>
言い方は様々でも、いずれも、
<この世にあってはいけない者>
として忌み嫌われてきた。
別に、望んでそんな<命の形>を持って生まれてきたわけではないのに。
<前世の業>だとか言われても、そんな覚えてもいない、実際にそうだと証明することさえ不可能な、あるかどうかも分からない<罪>を押し付けられて『はい、そうですか』と受け入れられるわけもない。
どのような命の形を持って生まれようとも、ただ『そういうもの』として受け入れてもらえれば、身の丈に合った生き方もできるのに……
でも、エンディミオンとその子供達は出逢ってしまった。
自分の命の形をそのまま受け止めてくれる者達に。
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