愛の告白

『私がもし男だったら、お前と結婚したかった気がするよ』


それはいわば、<愛の告白>だったのかもしれない。


ただそれは、単なる、


『相手を自分のものにし、独占し、支配する』


ためのものではなかっただろう。


相手の幸せを願い、自分にできることをしたいという気持ちを表明するためのものだった。


だから性別も何も、実際に結婚するかどうかということすら関係のないものだったと言える。


そもそも、結婚しなければ誰かを支え幸せにしてはいけないという道理もない。<結婚>というのはあくまで法に依って立場を明確にし、権利を保障する為のものでしかない。それを必要としないのなら、結婚という形を取る意味もない。


そしてアオは、そんなものは求めてもいない。


ただ単純に、作家としての自分を支えてくれたさくらに幸せになって欲しいから力になりたいというだけなのだ。それ以外ではない。


すると、ミハエルと一緒にパズルで遊んでいたあきらがアオの下にやってきた。その姿は既に十二歳になるかならないかくらいの少年のそれになっていた。


とは言え、洸自身はまだ一歳にも満たない。だからその表情はとてもあどけない感じだった。


そしてアオの膝に座る。さくらが一緒だから今は人間の姿だが、狼の姿の時にはそれこそよくアオの膝で寛いでいたのだ。


「アオ~♡」


膝に座ったままで甘えるように頬を寄せてくる。洸にとってはアオは<もう一人の母親>のようなものだった。それがアオにとっても心地好い。


「洸……こんな私を慕ってくれるお前が愛おしくてたまらない。お前が私の生んだ子かどうかなんて、そんなのは些末な問題だ。お前は今、こうして私の膝に座り、気持ちを寄せてくれている。この事実だけが大事なんだ」


アオも洸の頭に頬を寄せ、抱き締める。その姿は母親のそれ以外の何物でもなかった。


「子を生まなくても子を育てることはできる。『生まれてきてくれたありがとう』、『私のところに来てくれてありがとう』、そう思えれば、それはもう実の子と何も変わらない。血の繋がりは子を愛するために絶対に必要なものじゃない。


それがすごく分かるよ……


だってそうだろう? そもそも父親は自分の腹を痛めて子を生む訳じゃない。我が子だという実感なんてある方がおかしい。今でこそ遺伝子検査で実の子かどうかを確かめることもできるが、昔はそうじゃなかった。なのに父親は<親>になるんだ。それを思えば、な」


愛おしそうに洸を抱きながらそう言うアオを、ミハエルが眩しそうに目を細めて見ていたのだった。


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