人間の法律は
アオは言う。
「まあ、
『子供を受け止めるというのは、何か罪を犯した時にそれについて目を瞑ることではない。子供と一緒にその現実と向き合い罪を背負うこと』
だとか言えば、
『じゃあどうしてエンディミオンの過去について目を瞑ってるんだ!?』
とか言い出すのもいるだろうな。
でも、『イジメ云々』の件は、ここが日本で、日本に住む人間なら日本の法律に従わなきゃいけないというだけの話だ。それだけのことだ。
ただ、エンディミオンは人間じゃない。人間の法律は適用されない。そもそもエンディミオン自身が人間の法律で守られてない。人権はない。社会保障は受けられない。それなのに刑法だけは当て嵌めると言うのか?
まったくもってムシのいい話だな」
それについてさくらは応える。
「そうですね。でも、もし、誰かが警察に彼をつき出そうとするなら、それはそれで当然のことだと思います。彼は確かに人間にとっては危険な存在です。私がいる限りは誰かに対して危害を加えるようなことは控えると言ってくれてますけど、他の人がそれを信じることはできないでしょう。
だから他の人が、自分達の安全を守ろうとして通報とかするとしても、それを責めることはできないですね……」
これもさくらの<覚悟>だった。エンディミオンと一緒に暮らすことで起こりうる諸々についても受け止めるという。
ただ―――――
「そうだな。それについては私も同意見だ。ただ、だからといって私が彼を警察に突き出すかと言えば、それはできない。彼の過去について目を瞑るとか彼がお前の愛する人だから庇うとかそういうこと以前に、『できない』んだ。
なぜなら、日本の警察では、いや、おそらく自衛隊でさえ、彼を止めることはできないだろう。
なにしろ警察や自衛隊には、彼のような存在に対抗するためのノウハウがない。警察や自衛隊が想定している相手はあくまで人間、もしくは精々が猛獣だ。ノウハウを蓄積してそれ用の訓練を重ねればひょっとしたら対抗できるようにもなるかもしれないが、しかし今の彼に対して攻撃を加えるのは、『藪をつついて蛇を出す』行為に外ならない。
だとすれば、さくらがいる限り彼は他人を害さないというのであれば、現状、彼についてはそっとしておくことが最も安全な対処法だろうな」
アオが腕を組みつつ、うんうんと頷きながらそう言うと、ミハエルが補足する。
「現状、先進国で吸血鬼やダンピールの存在を把握しているところは、それらについて静観する構えだよ。アオの言う通り、『藪をつついて蛇を出す』のは避けたいってことだろうね。
だから、今の日本政府にとっては、エンディミオンのことを通報されても逆に有難迷惑だと思うよ」
「だそうだ。なら、そっとしておくのが吉だろうな」
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