命の章

未婚の母

「妊娠…だと?」


新しい年を迎えてしばらくしたある日、アオはさくらを前に呆然としていた。


さくらに妊娠を告げられたのである。


「……エンディミオンのか…?」


それ以外にはないとは思いつつも、念の為に尋ねる。


「はい……」


照れくさそうに頬を染めながらも、さくらははっきりと応えた。


「あ~…いや、まあ、そうか……うん、おめでとう」


戸惑いながらもアオはそう言って祝福した。しかしすぐに、


「相手は当然、私達以外には明かせないよな」


とも。


現在、エンディミオンに国籍はない。偽装されたそれはいくつも持っているものの、そのどれもが年齢を十歳ないし十一歳としているので、もしその偽の国籍を基に身分を作ったとしても、当然、<父親>として名乗り出ることはできない。


十歳の少年とそういうことをしたとなれば、やはり、<淫行>扱いとなる。実際にはその辺の高齢者すら<小僧><小娘>と呼べるくらいの年齢ではあるものの、それを正直に明かすことはできない。


「<未婚の母>ってことになるな」


アオはそう言ったが、それは同時に、自らに覚悟を促すものでもあった。その上で、


「分かった。私も全面的にバックアップする」


と告げる。


「ありがとうございます」


さくらが深々と頭を下げた。


「しかし、御両親にはどう告げる?」


さすがにそれが気になって尋ねた。


けれどさくらは平然と、


「両親も喜んでくれていますよ」


と返す。


「マジか……!?」


「マジです」


「いやしかし、普通は自分の娘がどこの誰とも分からん相手の子を、未婚の母として産むとかなったら反対せんか?」


「いいえ。全然。両親が気にしてたのは、レイプとかそういう形での妊娠じゃないのか? ってことだけでしたね」


「そうか…そういう場合もあるもんな」


「ええ。でも、万が一そうだったとしても『生まれてくる子供に罪はないから』ってことで受け入れるでしょうね。あの人達なら」


「……豪胆だな…」


「そうですね。だけど、あの人達にとっては、どういう理由で来たかとかの経緯は関係ないんです。『自分達のところに来てくれた』っていう現実だけが重要なんです」


「すごい人達だな……」


「すごい人達なんです」


いずれそういうこともあるかもしれないとは思っていたものの、さすがにもう少し先だと思っていたことで、アオとしては少々混乱もしていた。そこに、自分の娘が『未婚の母になる。しかも父親については何も話せない』のを平然と受け入れるのがさくらの両親ということで追い打ちをかけられた形なのだった。


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