忘れません

「!?」


『どこのどなたかは知りませんが』と話しかけたエリカに、さくらはハッとなった。


『まさか、私のことに気付いてる……!?』


気付いているのかどうか確証はなかったものの、この場にいるのは確かにエリカとさくらだけだった。だから、この場は自分に対してのものだと受け取ってもいいのではないかと考えた。


「……忘れません…いえ、忘れられるわけがないですね……」


そう応えたものの、その言葉はエリカには届いていなかったようだった。




「……そうか…そんなことが……」


翌日は仕事だったので、さくらは朝からあきらをつれてアオのマンションを訪れていた。と言っても世間は日曜日なので、保育園は基本的に休みであり、別に朝から連れていく必要はなかったものの、夢でのことを話しておきたいと思ったのだ。


アオとミハエルは、さくらの話をきちんと聞いてくれた。


その上で、


「その話を聞く限りは、残念な結末ではあったものの、恨みを持って亡くなったとか、そういうのじゃなさそうだな」


と素直な印象を述べる。


「はい。それは私も感じました。ウェアウルフだということはさすがに隠してたみたいですけど、別に周りの人達と関係が悪いというわけでもないみたいで、あくまで病気だったみたいですね」


そのさくらの言葉に、ミハエルは、


「その症状については僕も初めて聞いた。ただ、どうしてもウェアウルフや吸血鬼については数が少ないし、一般の病院にかかっても人間と同じように対処ができないこともあってそもそも病院に行かないことで症例が集まらないというのは確かにあるんだ。


エリカの例にしても、単に僕が知らないというだけで、そういうのがないと断言はできない。


これからまた夢の中で<記憶>にコネクトできたらもっと詳しいことが分かるかもしれないね」


「はい。私もそう思います。でも、いい関係を築けてたみたいなだけに、本当に残念です……」


「そうだな……」


もう何十年の昔のことなので、今さらどうすることもできないものの、さくらもアオもミハエルも寂しそうな表情になっていた。


すると洸が、


「よしよし」


と言いながら、三人の頭を次々と撫でてくれた。慰めてくれているんだろう。


「洸は本当に優しい子だな……」


アオがしみじみと言葉を漏らす。


「ええ…」


「そうだね……」


さくらもミハエルも感慨深げに頷いた。


ミハエルもエンディミオンも、見た目はともかく実年齢はずっと年上の大人なので、<子育て>という意味ではアオもさくらもこれが初めてになる。


けれども、もうこの時点で何も心配要らないと二人は思った。


なにしろエリカが見守ってくれているのだから。


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