本当に母親だと
深夜。さくらの仕事が終わり、アオの家に
ミハエルにたっぷりと遊んでもらい、満足した洸は狼の姿のまま、ぐっすりと眠っていた。
それなのに、さくらに抱かれるとみるみる人間の姿になっていく。触れられただけでさくらだと分かってしまうようだった。
「大したもんだな。お前のことを本当に母親だと思ってるってことか…」
アオが感心したように呟いた。
「かもしれませんね……」
さくらは少し照れくさそうに応える。
さすがに裸のまま外に連れ出す訳にはいかなかったものの起こすのも可哀想だと思い、タオルケットを上から掛けて、さくらの体ごと覆い、そして端を縛ってショールを掛けているようにした。
これなら見られても大丈夫だろう。
そしてエントランスまでアオがさくらのバッグを持ち、そこでさくらの体に掛けて見送ると、外で待っていたエンディミオンがさくらのバッグを持ち、そして三人で新しい家へと帰っていった。
ミハエルはもちろん、アオもなるべく直接エンディミオンの前にはでないという配慮故の対応だった。
いい加減、エンディミオンの方も諦めればいいと思うかもしれないが、<恨み>や<憎悪>というのはそんな簡単なものではないのだ。
そんな簡単に恨みや憎悪が消えてしまうのであれば、犯罪被害者やその遺族の恨みや憎悪も、時間と共に薄れていかなければおかしいだろう。しかし現実は、どれほど時間が経とうとも消えることがない場合も少なくないだろうし、むしろ時間が経てば経つほどそれが深く濃くなっていく場合だってあるだろう。
それが分かるからこその配慮だった。
また、アオやミハエルがその配慮をしてくれているからこそ、エンディミオンのそれがより肥大化先鋭化せずに済んでいるというのもある。
無関係な他人が傍から見ているとじれったいとも思うかもしれないが、自分のやり方こそが考え方こそが正しいと考える者には理解できないかもしれないが、これが必要なことなのだ。
アオ、ミハエル、さくら、エンディミオン、洸の五人が平穏に暮らしていく為には。
強引にエンディミオンに考え方を変えさせようとしていれば、今頃、流血の事態に陥っていても何の不思議もないのである。
この五人にとってはこれが<正解>だったのだ。
無論、このまま他の事例に当てはめることはできないだろう。そんなことして上手くいかなくても誰も責任を負うことができない。結局、状況をよく理解した者が冷静に客観的に慎重に丁寧に対処するしかないということだと思われる。
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