前向き

『こんな風に人を騙してなんて……!』


不発弾が埋まっていることを隠して土地を売りつけた前所有者に対し、さくらは憤っていた。そのせいで騒動に巻き込まれた挙句に五百万もの費用を請求されたのだから、無理もないだろう。


しかし、そんなさくらにアオは言う。


「お前は本当に優しいなあ。元はと言えば、私が前のめりになって衝動的に買ってしまっただけだというのに。しかもお前はそんな私を諫めてくれてたじゃないか。それを無視して買ってしまったんだから、あくまで私の所為だよ」


とは言え、分かった時には内心は穏やかでもなかった。確かに形としては騙されたわけだから、それに対しては腹立ちもある。けれどさくらが怒ってくれたから、なんだかもうそれで気が済んでしまったのだ。


それに……


「それに、地下の防空壕だかなんだかの件についてはまだ決着はついてない。リフォームはできなくなったが、逆にこれで踏ん切りがついた。家は小さくなるが、その分、工夫を凝らした面白ハウスにしてもらおう。


まあその前に、地下の確認だな」


ということで、アオはすっかり前向きだった。


だからさくらも言う。


「先生! その家、私が借ります! 借りて家賃を払います……!」


つい声が大きくなってしまって、それに驚いたあきらが、「ふぇ…え……」とぐずりかけてしまった。


「は~い、洸ぁ、大丈夫ですよ~♡ 怖くないですよ~♡」


すかさずアオがなだめて、洸を落ち着かせる。そして落ち着いたのを確かめてから、


「お前もたいがいお人好しだな。分かった。面白ハウスにするのは控えめにして、お前に貸すことにしよう。乳幼児にも優しい、でもウェアウルフの洸にも楽しい家にしよう」




こうして、当初の計画を変更して、リフォームから建て替えということになった。そして、最初の予算からオーバーした部分をミハエルがカバーすることとして計画が立て直された。


しかし、その前に、地下を調査することはもちろんそのままだ。


しかも、建て替えなので元の基礎部分のことなど全くお構いなしで掘り返せるようになり、むしろ作業が進めやすくなった。


その様子を、アオのマンションの部屋の窓から、洸を抱いたさくらが見詰める。


不発弾騒ぎの時に気付いたのだ。部屋の窓から見えることに。


もちろん、人間の肉眼で見るにはいささか遠い上に目隠しのシートが張り巡らされているから詳しい作業の内容までは見えないものの、何となくまったく自分の知らないところで行われているわけじゃないということが感じられてホッとした。


ちなみにアオとミハエルは、現場の方に行っている。


その時、さくらの携帯に着信があった。


「なんかすまん。オレが勝手なことをしたせいで……」


エンディミオンからの電話だった。最近、さくらの名義でもう一台契約して、彼に持ってもらったのだ。


「ううん。いいんだよ。もしあのままリフォームしてたら、爆発してた可能性だってあったって言ってたし。エンディミオンは私達のためにそうしてくれたんだよね」


「……」


黙ってしまったエンディミオンをただ静かに待つさくらの腕の中で、洸がすやすやと心地よさそうに寝ていたのだった。


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