<いわく>の真相

『前の所有者が急いで手放そうとした理由って、もしかして……?』


アオとさくらが察したとおりだった。あの家と土地の持ち主は、不発弾が埋まっていることに気付いていて、それで急いで手放そうとしていたのである。


不発弾が見付かると、当然、自衛隊の爆発物処理班がその処理にあたることになるのだが、自衛隊が行う処理作業そのものの費用が請求されることはないとはいえ、処理を行うにあたっての、周辺への告知、避難、交通規制とそれによって生じる損害、万が一爆発した場合に被害が周囲に及ばないようにする為の工事(土嚢を積み上げる等)などといったものに掛かる費用については、国と自治体と、不発弾が出た土地の所有者とで負担するのが通例となっていた。


つまり、不発弾が出たことによって生じる騒動及び費用の負担を嫌った所有者が相場の半額以下の価格に抑えてでも早々に手放したかったということだ。


しかし、ただ価格を下げただけではその理由を勘繰られるため、怪奇現象をでっち上げて<いわくつき物件>としたのだった。


アオはまんまとその前所有者の思惑に乗せられてしまったということになる。


ちなみに、不発弾らしきものが埋まっていることに気付いたきっかけは、隣家の所有者が先である。粗大ゴミを引き取ってもらう費用が惜しくて自分で穴を掘って埋めようとしたところ、既に何かが埋まっていたのだ。


ただ、隣家の所有者はそれが不発弾であるとは思わずにそのまま埋め戻したが、得体のしれない鉄の塊が埋まっていたという話を聞いたこちら側の前所有者はそれが不発弾であると察してしまったのである。


「いや~、してやられたなあ」


結果としては『騙された』ということで、アオは気まずそうに頭を掻いた。


だがこれで納得できなかったのは、さくらである。


「そんな…! こんなのヒドイです……!」


けれど、アオは言う。


「まあ、気が悪いのは事実だが、この辺りはオカルト的なことにばかり気を取られて見抜けなかった私が迂闊だったというのもあるからなあ」


続けてミハエルも、


「エンディミオンは気が付いたんだから、僕が見抜けなかったのは僕のミスだよ」


と苦笑いを浮かべる。


だから、前所有者を訴えたりする気もなかった。


「でも、それじゃ先生が……!」


あきらを抱いたまま、さくらが前のめりになる。


それでもアオは言ったのだ。


「確かに五百万も余分な出費を払わされたのは痛かったが、なに、その程度ならミハエルが出してくれると言ってるし、何とかなるさ」


と。


だけどさくらは治まらなかった。


「そんな…! お金だけの問題じゃありません。先生は騙されたんですよ!? こんな風に人を騙してなんて……!」


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