更新
これまでは、あくまで、
『お前を守る』
という自身の言葉を守ろうとしていただけだった。
エンディミオンは確かに冷酷なダンピールだが、しかし<情>を全く持ち合わせない訳でもなかった。
敵と認定した相手には容赦しないだけである。
だからさくらに対して、
『悲しませたくないな』
と考えてしまったとしても、彼のさくらに対する認識が更新されたというだけだ。
しかし同時に、彼自身の冷酷な本質が変わってしまったというのでは決してない。この程度で和らいでしまうほど、ダンピールの吸血鬼に対する憎悪は生易しいものではなかった。
それでも、さくらを悲しませたくないというのも彼の本音だった。
ダンピールの心理も、人間のそれに準じて決して単純なものではないようだ。場合によっては本人でさえよく分からない時があるのも、人間に近いと言えるだろう。
もっとも、それは吸血鬼も同じだが。
確かに吸血鬼のメンタリティは、人間のそれとは異なっている。長命で、成長が遅く、寿命以外で死ぬことも人間に比べれば少ない吸血鬼のそれが人間と同じはずがないのは事実だろう。しかし、人間に近い姿形をし、実は肉体の基本的な成り立ちという意味では人間とそう大きく違わない吸血鬼は、その豊富な知識や経験もあって、価値観を人間に寄せることはそれほど難しくなかったのである。
人間の場合だとこの辺りは、どうしても数十年という短いサイクルで個体が入れ替わり、かつ知識や経験の引継ぎに難しい一面があるという特性ならではの<弱点>ともいうべきものかもしれない。
ただ短命な人間とは逆に、長命であり知識や経験や価値観を引き継ぎやすいということは、一度固定化された価値観を更新することは難しい場合もあるという相反する一面も持つのだろう。
ダンピールの吸血鬼に対する憎悪は、そのようにして引き継がれてしまっているというのもあるのだろうか。
さりとて、それが決して更新されないというものでも必ずしもなく、さくらとの暮らしは、確実にエンディミオンに影響を与えていた。
「どうする? なにか食べて帰る?」
さくらが問い掛けると、独り言のような小さな声で、
「……唐揚げがいい……」
とエンディミオンが応えた。
「え……?」
ダンピールにとっては十分な大きさだったもののさくらには聞き取れず訊き返すと、
「お前の作った唐揚げが食べたいと言ったんだ……!」
吐き捨てるように言い放ちながら、エンディミオンは一人ですたすたと歩き始めてしまう。
その後ろ姿を見守りながらさくらは、
「うん。分かった。じゃあ、帰りにスーパーに寄って買い物していこ」
と嬉しそうに声を掛けたのだった。
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