時間

するとミハエルも困ったように笑みを浮かべながら続けた。


「それだけじゃないんだよ。なにしろ、ヒロシマとナガサキに原爆が落とされた時には、原爆が吸血鬼に効果があるかどうかっていうのも確認されたって話もある。


これらは大戦後に知り合いの吸血鬼から又聞きの話として聞いただけだから、正直、どこまで信用していいか分からない。


ただ、そういうことだってあってもおかしくなかったのが当時ってことだね。


実際、人間に協力してた吸血鬼がスパイとして日本に潜伏してたりしたのは事実なんだ。原爆投下の目標にされた理由の一部に、そのスパイの件があったことも否定はできない……


だけど人間も、さすがに懲りたってことでそれ以降は慎重になったみたいだ。


と言うか、原爆の件が事実なら、核が吸血鬼にも効果があるのが分かって、『いざとなれば核で焼き払えばいい』って結論になった可能性もあるよ」


「はひ~…茶化していい話じゃないとは思うけど、なんかもう、そこまでいくとラノベだね」


「そうだね。人間にとっては荒唐無稽すぎてピンとこない話だと思う。もっとも、吸血鬼の存在がそもそも荒唐無稽すぎるけどさ」


「かもしれない♡」


「でも、その時の研究で分かったこととして、吸血鬼はまず『生物としてデタラメ』な存在なんだって」


「へえ…!」


「肉体の構造そのものは細胞レベルで人間のそれと極端には違わないのに、働きがまるで違うんだ。どうやらそれは、細胞内にいる微生物の働きらしいっていうことまでは分かったんだけど、その微生物を解析することがまったくできない。人間の使ってる測定機器じゃ、確かに目には見えてるそれが捉えられないんだって。


サンプルについては十分に供給されてるから、今でもその<微生物>を何とか観測しようとしてる段階みたいだ。まずそれの正体を掴んでからでないと、核兵器よりも危険だっていうのが今の認識らしいよ」


「つまりそれが解明されるまでは、迂闊に手を出すこともできないと?」


「そういうことみたいだね」


「でもそれじゃあ、解明されちゃったら逆に吸血鬼を利用しようと人間が動き出す可能性もあるってことじゃないの? 大丈夫なの?」


心配そうにそう訊くアオに、ミハエルはニッコリと笑いかけた。


「その可能性も否定はできないけど、今の技術レベルだと、百年かけても無理かもね。今も協力を続けてる吸血鬼から話を聞く限りは」


「そうなの? だったらいいけどさ……」


ミハエルのことは信用したいものの、科学や技術の話については、精々、自分で電子端末が設定できる程度のアオには十分にピンと来ることではなかった。


そんなアオにミハエルは言ったのだった。


「大丈夫だよ。人間はいろんなことを長い時間を掛けて学んできた。無闇に他者と敵対するのはリスクになるってこともね。それが解明される頃には、人間はもっといろんなことを学んでると思うよ」



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