家族だなあ
『人間はいろんなことを長い時間を掛けて学んできた』
ミハエルにそう言ってもらえて、アオは何だか少し嬉しくなっていた。
とかく世間では、
『人間は愚かな存在』
と言われることが多い中、ある意味では人間そのものを客観的に見ることもできる立場にいる吸血鬼である彼が人間をそんな風に見ているのが分かってホッとしたのだ。
「人間は愚かなだけじゃないって、ミハエルは思ってくれる?」
アオが問い掛けると、彼は間髪入れずに、
「もちろん」
と応えてくれた。
「共存が決して簡単なことじゃないのは確かだよ。だから僕は日本に来ることになった。でもね、父さんも母さんも、決して人間を見捨てなかった。そして僕も、決して人間を見捨てようとは思わないんだ。
日本に来てこうしてアオと親しくなれて、余計に確信したよ。
何度失敗してもいい。どんなに遠回りしてもいい。だけどいつかはお互いにとって利になる結論に辿り着けると思ってる。
と言うか、そうならない理由がないんだ。人間という生き物の特性から考えるとね」
「それは何故?」
「人間が<利>を求める生き物だからだよ。吸血鬼と敵対することは、人間にとっては決して<利>にならない。
敵対するよりはお互いを利用する方が確実に利益に繋がるんだ。
吸血鬼は人間と敵対することをやめたからね」
「はあ…そういう考え方もあるんだね」
アオが感心したように呟いた時、目的のスーパーのすぐ近くまで来ていた。
そこで一旦、話すのをやめ、二人でスーパーに入る。
食品売り場で、ついでに食料品も買い込んでおく。それからお菓子売り場で、クッキーと一体になったチョコレート菓子と、アーモンドが練りこまれたチョコレートもカゴに入れ、レジへと並んだ。
既に八時半を回っていたが、それなりの列ができていた。半額セールなどを目当てに来た客も多かったからだろう。アオも、半額になった総菜などをいくつか買っていた。
それらをクレジットカードで決済し、店を出る。
こうして二人で買い物に来て一緒に帰るというのが、アオには嬉しかった。
『ああ……家族だなあ……』
としみじみ思えた。
<友達>というのとは、確かに違うのだ。
友達と買い物に来た時のような高揚感とは違う、安らぎのようなものがミハエルと一緒に買い物にはあった。
「いつかこういうのが当たり前になったらいいね……」
ミハエルの言う通り、人間が吸血鬼との共存によって得られる利に気付いてそのような世の中がきてくれることを祈った。
それと同時に、
「私はその頃にはもう生きてないかもしれないけどさ……」
とも口にしたのだった。
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