お返し

『不思議だな。こんな話、今まで誰ともしてこなかったのに。ミハエルが相手だと自然と口にできちゃう……』


親や家族に対する愚痴とか、これまでは親しい相手にさえここまで踏み込んだ内容では話してこなかった。それが次々と言葉になってしまう。


『こんなの、普通はされた方も困る話だもんね』


そうだ。この種の話は、聞かされる方も気が滅入ってしまうことが多いだろう。それくらいはアオも分かっているから話さないようにしていたつもりだった。


それなのに、ミハエルは穏やかな表情でちゃんと聞いてくれるのだ。


そうしてもらえることがどれほど癒されるか、アオは生まれて初めてと言ってもいいくらいに実感した。


「こんな話、迷惑じゃない…?」


思わずそう尋ねてしまっても、ミハエルは静かに首を横に振る。


「ううん。大丈夫だよ。そういうのは溜め込まずに吐き出した方がいい筈なんだ。ただ、確かに相手を選ばないとトラブルの原因になったりすることもあると思う。


そういう意味でも、僕なら他の誰とも繋がりもないし、そういうのも慣れてるから、大丈夫だよ」


『ホント、これじゃ私の方が養育されてるよね……』


改めてそんなことを思う。実際、精神的にはミハエルの方が圧倒的に優位にあっただろう。そしてまたそれが心地好かった。


そうして精神的に落ち着けて、一緒に夕食にする。


ただ、アオはその時、ふと気になったことがあった。


「そういえばあれ以来、血は吸われてないけど、大丈夫なの?」


ここまでで吸血は必須でないことは聞かされてきた。しかしそうは言ってももうあれから十日以上が経っている。さすがに心配になってきたのだ。


するとミハエルは事もなげに、


「大丈夫だよ。その為にこうやってちゃんと食事を摂ってるんだから」


と微笑んだ。しかしその次の瞬間、スッと真っ直ぐ視線を向けて、言う。


「でも、そうだな。満月の夜辺りになってくると、さすがに衝動が強くなってくるし、その時にはまた、お願いしてもいいかな」


そう言われて、アオはむしろぱあっと表情が明るくなった。


「うんうん、もちろんいいよ! むしろどんと来いって感じ! でないと、私ばっかりミハエルのお世話になってる気がするし!」


正直な気持ちだった。これまで結局は彼に癒してもらってばかりで何もできてない気がしていて、引け目に感じ始めていたのだ。


「なんかホントに、私、血をあげるくらいしかミハエルにしてあげられることがないって感じてたんだ。だから、血くらいお返ししないと申し訳なくって」


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