真摯

お風呂の後で、アオはまた仕事に戻ろうとした。しかし、


『はにゅあぁぁ~~~~。尊い~~~~♡』


風呂上がりのミハエルの姿に見惚れてしまって仕事にならない。


そんなアオにも、彼はやっぱり優しかった。


「お仕事しなくていいの?」


柔らかく問い掛ける彼に、


「あ~いいのいいの。今、ミハエルのご尊顔を拝して充電してるところだから……」


などと言い訳をしてデレデレになっている。


「しょうがないなあ……」


そう言ったミハエルも、彼女がそうなってしまうのもある意味では仕方ないと分かっていた。だから、自分に見惚れているアオにゆっくりと話しかける。


「僕達吸血鬼に美男美女が多いのは、人間の警戒心を解いて接近し、吸血を容易にする為だって言われてるんだ」


「へえ…! 言われてみればなんか納得できる気がする。でも、その為の魅了の力じゃないの?」


ふとした疑問が言葉になった。


それに対しても彼は丁寧に答えてくれる。


「魅了の力は人によっては効かないことがあるんだ。決して万能じゃないんだよ。だからそれよりも手っ取り早くと言ったら変だけど、確実に効果があるのが見た目だよね」


「はあ~~、なんかすごく納得する。確かに外見って魅了の基本だよね。


だけど、もしそれも効かなかったら?」


「その時は諦めるだけだよ。諦めて、他の人にお願いするんだ。


昔はそこで強引なことをした仲間もいて、それで人間を敵に回してしまった。僕達は先人達の失敗から学ばなくちゃいけない。僕達は知性のない本当の怪物じゃない。より良いものを目指せる心もある。


人間達にはそれを知ってもらいたいんだ。その為にも僕はこうやってアオとたくさん話をしたい。たくさん話をして、僕達のことを知ってほしい。もしアオがお話を書く時の参考にしたいって言うんなら、ぜひ協力したいんだ」


穏やかで静かだけど、ミハエルの言葉には不思議な力があった。真摯に自分の考えを伝えようとする姿勢を感じた。


そんな彼の姿に、アオはハッとさせられる。


『あはは。なんだか恥ずかしくなってきちゃった。浮かれてたな~。


そうだよ。ジャンルはラノベでも、私は<物書き>なんだ。伝えたいことがあるからそれを文章にしてるんだ。そのことを忘れちゃいけないよね』


それはアオがいつも自分に言い聞かせてることだった。それを改めて教えられて気がする。


すると、さっきまでのふわふわした気分は鳴りを潜めて、頭がしゃんとしてきた。


『私は私の仕事をしなきゃ…!』


素直にそう思えたのだった。


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