在り方
「じゃあ、僕もお風呂入るね」
お風呂からあがったアオにそう告げて、ミハエルもお風呂に入っていった。
ちなみに彼が着ている服は、アオが<資料用>という名目で買ってあった男児用の服である。
それを着た彼を見て、
『ぐおぉおおぉぉ~~っ! 半ズボンから覗く細くて白い生足……! 尊い…! 尊過ぎるぅ~~』
などと、声にまでは出さないものの、傍目にも興奮してることがすぐに分かるような様子だった。
しかしミハエルは、そんなアオの様子に気付いても気持ち悪がったりせず、穏やかに微笑み返してくれた。アオの態度は決して悪意などからではないことが彼には分かるからだった。
数多くの人間達を見てきた経験があるが故に。
<戦争>と聞けば日本人の多くが思い浮かべるような第二次大戦のそれだけではなく、ソ連崩壊前後の泥沼の紛争も含んでのことだった。
彼はその現場さえ自身の目で見てきている。それに比べれば多少の変態性癖など可愛いものと言えるのかもしれない。
しかしそれはさておいても、ミハエルは優しかった。物腰が柔らかく、トゲがない。少し気に入らないことがあるからと言って険のある態度を取るのが<当然の権利>だと思っている人間とはまるで違っていた。
それはまさに、フィクションの中に登場する、理想像そのものの姿だっただろう。
けれどそんな彼の姿も、決して<作られたキャラクター>だからではなかった。そうなるべくしてそうなった理由には彼にはあった。それこそが、
『吸血鬼でありながら人間と良き隣人であろうとする』
彼らの在り方そのものだった。
刺々しく攻撃的に振る舞えば相手もそれを返してくる。そして争いが生まれ果ては命まで奪い合う。
そういう人間達の失敗を数限りなく見てきたからこその在り方だった。
人間は命の期限が短いが故にそれを悟っても次の世代に確実に引き継ぐ前に潰えてしまう。しかし吸血鬼達はその有り余るほどの時間を費やして、自分達が学んだことを次の世代へと伝えていく。
それが具現化したものこそがミハエルのその姿だった。
『他者を傷付けようとする者は、自らもまた、他者によって傷付けられる』
これは紛れもない事実であろう。
だから彼らはそれを放棄することを選んだのだ。
「ありがとう。気持ち良かった。日本のお風呂もいいね」
そう言ったミハエルの白い肌が桜色に染まっているのを見て、
『はにゅああぁぁあぁあぁぁ~~~~♡』
と、アオはまたデレデレに見悶えていた。
そしてそんな彼女の姿を見て、ミハエルは柔らかく微笑んだのだった。
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