改めてよろしく
正直、霧雨はミハエルのことを、見た目のこともあってやはりどこか子供のように見ていた部分はあった。だから何とか言いくるめることもできるんじゃないかと、心のどこかでは思っていた。
でも実際にはまったく逆だった。完全に子供の見た目をしていても、ミハエルは確かに霧雨よりも遥かに人生経験を積んできているのだということが、彼の言葉からも伝わってくる。
それに気付いて、彼女は自嘲気味に笑うしかなかった。
『はは……これじゃ私が彼に育てられてるみたいなものだよね……
でも……
でも、それでもいい。私は彼を自分にとって都合の良いペットや人形のように扱いたかったんじゃないから』
そう思うと同時に気付いてしまった。
『そうか……私は今まで自分にとって都合の良い存在になって欲しいって相手に期待してたのかもしれない。
だから自分の思う通りになってくれないことが辛くて嫌で、関わることを避けてきたのかもしれない。
自分は相手の思い通りになるのを嫌がってるのに、相手には思い通りになってもらいたいなんて、我儘にもほどがあるよね。
そんなことをしてたら上手くいかなくて当然だよ。そんな都合の良い人なんてこの世にはいないんだからさ。
女性でも、男性でも……』
もっとも、それに気付いたところですぐに変われる訳でもないのは人間という生き物だった。スイッチが切り替わるように変わってしまうことなんてない。
『これからもきっと、同じような失敗を繰り返すんだろうな。でもそれはきっと、ミハエル達吸血鬼も同じって気がする。何度も何度も失敗して、その度にその経験を自分のものにして、そうして生きてきたんだろうなって気がした。だからこんな風に話せるんだろうなって』
そして言った。
「私は私のままであなたと一緒にいたらいいってこと……?」
それが彼女の中に生じた<答え>だった。
『人間は人間として生きながら一緒に暮らすこともできる』
というミハエルの言葉の。
するとミハエルがふわりと柔らかく微笑んだ。
「やっぱり、お姉さんは素晴らしいな。そんな風に思えるから、あの時、僕を見付けてくれたんだと思う。
あの時、僕は、本当は気配を消してたんだよ。普通の人間なら僕のことは見付けられなかったはずなんだ。
それなのにお姉さんは僕を見付けてくれた。だから僕はお姉さんのことが好きになったんだ。
お姉さん。僕、お姉さんのところでお世話になりたい。改めてよろしくお願いします」
そう言って深々と頭を下げるミハエルに、霧雨はまたたまらない気分になっていたのだった。
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