眼福どころか

『やった……ついにやってしまった……ショタ誘拐……』


道端に落ちていた<完璧美少年>を自宅へと連れ帰ってしまい、蒼井霧雨あおいきりさめは血の気が引くのを感じていた。


もしこの少年の保護者が既に捜索願を出していたりすれば、たとえ『保護が目的だった』と言っても、それが確認されるまで身柄を拘束されて事情聴取を受けるのは免れない。


『それが世間に知れたところで何を言われたってスルーすればいいけど、前歴が付くのはさすがにマズいよなあ……』


なんてことを考えながらズーンと落ち込む。


すると、そんな彼女を見ていた少年が、


「やっぱり、ボク、迷惑……?」


と申し訳なさそうに訊いてくる。


とか言われると、ダメだった。


「はっはっは! 迷惑なんてある訳ないじゃないか!!」


などと、腰に手を当て反り返り、担当編集と話をする時のような<尊大な作家様キャラ>が思わず出てしまった。


その上で、思ってしまう。


『この子…どうしてそんなに気にするんだろう…? 一体、どういう境遇なんだろう……?


見た限りだと怪我とかしてないみたいだし、華奢だけど栄養失調とかって感じまではしないし、虐待とかじゃない気はするけど……』


そう考えながら改めて明るいところで彼の姿を見ると、その美しさがさらに際立ってしまう。


『ぐは~っ! こんな<美生物>がこの世に存在していいのか!? まさに神が作り給うた芸術品そのものではないか……っ!?』


そんな風に思わずにいられないほど、少年の美しさは、神々しいまでのそれだった。


『もしや<這い寄るあのお方>だったりしないよな……? いや、むしろその方が納得できるかもしれない。こんな有り得ない美しさ……』


身長は百三十センチくらいだろうか。小学四年生くらい? いや、白人ということならやや背が高い場合もあるだろうからそれ以上に幼い可能性もある。


輝くようなプラチナブロンドの柔らかそうな髪。長い睫毛を備えた潤んだ碧い瞳。それとは対照的な、血に濡れたような艶やかな赤い唇。華奢にも見えつつ、しかし何か不思議な力強さも感じさせる、まるでネコ科の獣のようなすらりと伸びた四肢。今の時期には少し寒そうにも見える半袖半ズボンという恰好から覗く、透明感さえある白い肌。


それが今、自分の部屋に存在しているという事実だけで、蒼井霧雨は果ててしまいそうな気さえした。


『眼福どころか眩しすぎて目が潰れそう……!


くっそ~! やらせはせん! やらせはせんぞぉぉ!!』


圧倒的な存在感に打ちのめされる錯覚すら覚えつつ、


「おなか減ってない? 何か食べる?」


精一杯の作り笑顔でそう尋ねる彼女に、少年は言ったのだった。


「ボク…お姉さんがほしい……」


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