第15話

 机の上に銀紙で包まれたチョコレートの山。それを小さな袋に入れかわいいリボンで結ぶ。それが僕たちの仕事。


「なんで俺が誠の内職の手伝いをしなくちゃいけないんだよ!」


 ぶつぶつ文句を言いながら僕より綺麗にチョコのラッピングを完成させる。


「これだけ沢山作ったら余るんじゃないの?」


「まあね、でも当日に足らない事のほうが大問題。毎年数が多すぎて困った事なんて無いもの」


 袋にリボンをかけながら昔、私から友チョコをもらえなかったことが発端の小さな事件を思い出す。


 野球漬けの人生でバレンタインデーなんて関係ないと思われがちだが、誠は小さいときから天才野球少女としてちょくちょくTVに出ている。ただのクラスメートだけではなく、望まない学校の小さなアイドルという地位も付与されてきた。友チョコの数だけでも半端無いのである。

  

         *    *    *


 2月14日の放課後、校門前で女の子の列ができており昨日作ったチョコ袋があっという間に完売した。


 小さなチョコが大きな4つの紙袋一杯のチョコに替わる。荷物持ちよろしくと猛がそのチョコ袋を運ぶ。河川敷の球場に行くまでその紙袋の数はどんどん増える。


「いやー凄いよなこのチョコの数、どこぞのアイドルかよ」


 いつもより重い荷物を河川敷まで運ばされてむくれる。


「この荷物を僕のうちまで運ぶまでがバレンタインデーよ」


「うへーどうせこのチョコを部員に配るんだからこのまま部室に置いていけ」


 寒さで真っ赤になった手をさすりながら話す。


「もらった手紙は一応よまなくちゃいけないから」


 アイドルよろしくウインクする。


 練習後、仕方なく彼女の家までバレンタインデーの行事をともに遂行する。


「じゃあまた明日ね」


 アイドルを無事家り届けたマネージャーを労う。


 ラップに包んだチョコを彼に投げる。


「猛! チョコ一個余ったから♪」


 彼は慌てて受け取り真っ赤な顔になった。




















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る