時の間「Code7.第7の刻―白き人形は再生の聖痕を刻む。それは過去改変の布石なり。」

 私はフィナ。栗色の髪のメイド兼、青のお嬢様の付き人をしています。


 ピンチです。非常にピンチです! お嬢様が、まさかここまで無茶なことをされるなんて! 白亜のお城にお嬢様が二人おられるのは、時の魔術が暴走しているためでしょう。


 青のお嬢様、天使の子に変装しているのは……自分の行いが、悪いことだと自覚しているからですか? お嬢様、私がいないと何もできないでしょう? 変装なんてできないのに、協力者は誰ですか?



 よろしい、お嬢様。付き人として、悪さをする前に捕まえて、主様しゅさまのもとへ連行させて頂きます。逃がしませんよ。今日は、無断外出は許しません!



 私は、精霊魔術を再度行使。お嬢様の白い腕にくっ付いている、私の糸を強くしました。お嬢様のことは、私が良く知っています。


 今まで何度も、お嬢様は怒られるのが嫌で、私から逃げました。主様しゃさまのお部屋に隠れたり、食堂で時の魔術を暴走させたりして、お城のメイドを困らせていましたね。


 お嬢様、私の精霊の糸に捕まったら、降参してください。いつも、私の糸を無理やり切ったりされないでしょう? 


 天使の子に見えるお嬢様は、私の糸を触っているだけです。うん、お嬢様は優しい子です。誰かを傷つけてまで、約束を破ったりはされません。



『フ、フィナ、これ外してよ!? フィナは勘違いしてるの!』



『お嬢様、主様に怒られる覚悟をしておいて下さい!』



 よし、あと10m。お嬢様にできることは、時の魔術を暴走させることだけ。体力では、私でも勝てます。ここまで近づけたら、あとは抱きしめて、捕まえて連行しましょう。



 さあ、覚悟を……あれ? あれは、いったいなに?



『もう。再生の時よ、この壁に入口を。』



 お嬢様の周りに、謎の光る輪っかが現れました。くるくると回転しています。あれも、時の魔術? それにしては、魔術の構成が完璧すぎる。お嬢様は時の魔術を制御できないのに。


 あれはまるで、主様の時の魔術の様です……そんな、どうして!?



 お嬢様の白く光り輝く輪っかが、お城の宝物庫にあたりました。すると、大きな石の壁に、いとも簡単に穴が開いていきます。



 あ、まずい! お嬢様が宝物庫の中に入ってしまいました。なぜ、お嬢様が時の魔術を制御できているのかは、捕まえてから考えます。


 このまま止まったら、私だけ、外に取り残されてしまいます。躊躇ちゅうちょしている時間はありません!



『フィナ、あぶないから、ちょっと止まって。

 これにはちゃんと理由があるの。だからー。』



『お嬢様、このまま悪いことをするのなら、

 まず私の屍を越えてからにして下さい!


 何もせず、お嬢様の蛮行ばんこうを見逃すことはできません!』



 あれ? お嬢様がすごく悲しそうな表情をされています。えっと、反省して、宝物庫の外に出てきてくれたら、それでいいのです。


 手を伸ばせば、お嬢様に届きます。さあ、お嬢様、危ないので外に出てきてください。



『フ、フィナ。私は絶対に嫌! フィナは死んだらだめなの!』



『え、いやあの言葉の綾ですよ? お嬢様!?』



 お嬢様の光の輪っかが、急に大きくなりました。光の輪っかが、私の胴体を通過します。


 あれ? 通過したけど、何もなっていません。痛みもありません。とりあえず、天使の子に変装しているお嬢様を抱きしめました。



 わ、輪っかが小さなくなって、後ろから押されます。変な輪っかです。通過した時は何も起こらなかったのに。



 お嬢様が、私に抱きつきました。それはいいことです。じゃあ、このまま連行して、あれ? お嬢様の輪っか、邪魔なんですけど。


 私がしゃがんで、この輪っかをかわそうとすると、変な輪っかがついてきて邪魔をします。何度試しても、輪っかの外に出られません。全然だめです。



 宝物庫の大きな石の壁にも、傷一つありません。白亜のお城の秘匿の間、宝物庫の中に入ってしまいました。お嬢様の輪っかが、周囲を優しく照らしています。



『お嬢様、なんですかこれ!? 新手の嫌がらせですか?』


『フィナ、ごめんなさい。フィナ、亡くなったら嫌。』



『お嬢様、ですから言葉の……。

 大丈夫ですよ、私はお嬢様をおいて、どこかにいったり致しません。


 最後まで、ずっとお傍にいさせて頂きます。

 嫌だと言っても、主様しゅさまの代わりに、お傍にいますからね?』



 お嬢様は、私に抱きついて泣いておられます。私は、可愛い天使の子を優しく抱きしめて……綺麗な髪ですね。追いかけて疲れました。お嬢様、ご褒美として、頭をなでなですることを要求します。



『お、お嬢様、この輪っか、後ろから押してくるのですが……。』



『フィナ、ごめんね。

 私、宝物庫の中にある、“12個の星の核に時の魔術を刻む”。


 自分の過ちを償わないといけないの。』




『お、お嬢様、どうして星の核のことを。

 

 ノルン様、時の魔術は危険な魔術です。

 私も一緒に謝りますから、主様しゅさまのもとへ……。』

 

 


『今は、お母さんに会えないよ。


 今、会ったら心が折れてしまう。きっと、お母さんの傍にずっといる。

 もう二度と、この城から出ようとしなくなって……。



 でも、それじゃあ駄目なの。何も変わらない。

 あいつの一人勝ちだよ。それじゃあ、嫌なの。フィナ、ごめんね。』



 空中に浮かぶ白く光る輪っかが、後ろから押してきます。私とお嬢様は、宝物庫の奥へ……お嬢様が望んでいるから? お嬢様、どうして星の核のことを?






 暗い闇の中、私とお嬢様はゆっくり歩きます。この真っ黒な場所で、自分が立っているのか、浮かんでいるのかさえよく分からなくなります。



 私たちは見つけました。闇の中で、“12個の水晶”が青く光っています。


 

 あれは星の核。創造を司る、光の魔術の奇跡の産物。光の女神フェルフェスティ様が、天国の精霊たちと共に創り出したもの。




『再生の時よ、聖痕を呼び覚ませ。女神の聖痕よ、星の核に宿れ。』



 お嬢様の白く光る輪っかが、ボロボロと崩れていきます。よく見ると、小さな文字が、闇の中に浮かんでいました。


 お嬢様の小さな文字が、12個の星の核にくっ付いていきます。




『再生の時よ、希望の魔女と共に歩め。魔女と共に再始動せよ。』



 唖然として、何もできなかった。お嬢様の悪さを止めなかったのですから、付き人失格ですね。



 お嬢様の小さな文字が、星の核の中へ消えてしまいました。天使の子に見えるお嬢様は、時の魔術を完璧に制御されています。



 目の前にいる、青のお嬢様のことが分からない。私が知らないお嬢様がいらっしゃる。私の目の前に……。


 

『フィナ、ここで何をしているの?』



『え!? あ、主様しゅさま。あの、その……。』



 突然、闇の中に光が現れました。宝物庫の大きな石の壁が、時の魔術によって消えた様です。光が戻ってきて、私にもよく見えます。怒っておられる、その御姿が。




 時の女神ノルフェスティ様。主様しゅさまです。


 お嬢様の時の魔術の異変に、お気づきになられたのですね。



 主様しゅさまの銀色の髪は長く、腰まで届いています。紐やリボンなどで纏めておらず、主様しゅさまが歩くたびに緩やかに波打っていて、とても綺麗です。



 主様しゅさまの眼は、とても……クールです。何もかも凍える冷たい白い瞳で、私を見ています。



『お嬢様、覚悟はよろしいですね?

 あ、お嬢様。私の後ろに隠れようとしないでください!』


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