第89話『お転婆な青のお嬢様の付き人、フィナは今日もお忙しです③』

 孤児院オーファンの先生のお話です。


 皆が無事に生きて、この天空の花畑まで辿り着けなかった。体力のない弱い子は亡くなりました。この子たちは、下界の現状―辛くて苦しいことを、天使様に伝えに来ました。この壊れた世界、下界が少しでも良くなる様に。



 幸運なことに、生き残った子たちは、戦争のない平和な星へ行ける。天国の天使様が連れていってくれるので、俺も安心です。


 ここまで諦めずに頑張って、本当に良かったです。孤児院オーファンの先生は、笑顔で私にそう言いました。



 下界の元気な子供たちと、孤児院オーファンの先生。私は子供たちに手を振って、笑顔で別れた。この子供たちは、愚かで醜い無価値な戦争によって親を亡くしてから、ずっと辛い旅を続けていたそうです。



 私はフィナ。栗色の髪のメイド兼、青のお嬢様の付き人をしています。



 花畑で元気に遊ぶ子供たち、戦争によって親を亡くした孤児オーファンたち。



 ここでは、天空の楽園では嬉しそうに、楽しそうに遊んでいます。綺麗な瞳の少女たち、橙色の瞳や緑色の瞳の少女たちも……やっぱり、綺麗な瞳は美しい。印象に残りますね。



 孤児院を運営している、体格のいい人間の男性―孤児院オーファンの先生。


 彼は子供たちのことだけでなく、自分自身のことも少し話してくれた。彼は冒険者稼業で生計を立てていたけど、戦争が激化したため、そのまま引退。故郷に帰って、そこで孤児院の運営を始めたそうです。



 でも、エルフと人間たちの醜い争いは終わらない。安全な場所を求めて、先生と子供たちは一緒に逃げた。そして、優しい精霊に出会い、導かれて、やっとの思いで、天国に辿り着いた。



 孤児院の先生と下界の子供たちは、まだ一緒に旅を続けます。別れる際に、子供たちは最後まで手を振ってくれていました。



 色違いのとても美しい瞳は、宝石の様に見る者を惹きつけます。爆ぜる様な黄色の瞳。燃え滾る赤い瞳……橙色の瞳や緑の瞳の少女たちにも出会えました。


 孤児院オーファンの先生によると、美しい色彩の瞳は、天使や精霊たちに愛されている証らしいです。うん、黄色の瞳のエレナ様も精霊との相性がいいですからね。



 孤児院オーファンの先生は、子供たちが喜びそうな物語をいっぱい知っていました。きっと、青のお嬢様ノルン様にも喜んで頂けるはずです。



 どうか、下界の子たちが、新しい星で幸せに暮らせます様に。エルフと人間たちの醜い争いが終わる様に、久しぶりに祈ります。



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 ここは過去の天空の楽園、時の女神ノルフェスティの白亜の城。


 私は小さな城下町から戻ってきて、白亜のお城の廊下を歩いています。さあ急いで、青のお嬢様のもとへ戻らないと……あれ、私の糸が二つに分かれている。



 ここで予想外のことが起こります。本当に困りました。どうして、こんなことが起こるのでしょう。


 私の精霊の糸が、二つに枝分かれしています。一つは、青のお嬢様のお部屋に向かっていますが、もう一つは完全に別の場所です。しかも、明らかに動いていています。



 精霊魔術の糸が壊れた? いや、違う。精霊魔術の構成は間違っておらず、私の魔法の糸は、青のお嬢様にくっ付いている。



 精霊魔術の糸から得られた情報は、私をただ驚かせた。普通ではあり得ないことが起こっています。



 “青のお嬢様、ノルン様が二人おられる”。


 

 まさか、お嬢様の時の魔術が暴走している!? それなら、非常にまずい。お嬢様の時の魔術は暴走しやすく、お嬢様自身も怪我をしてしまうかも。



 私は走り出した。青のお嬢様のお部屋には向かいません。精霊の糸が示してくる道を、必死に辿っていきます。




 精霊の糸を追いかけると、白亜のお城の地下へ来ました。


 うわ、最悪です。主様しゅさまの時の魔術によって封印されている、お城の宝物庫に近づいています。青のお嬢様、少しは懲りて下さい。



 もう、お嬢様。勝手に、宝物庫の封印を解こうとして、主様しゅさまにものすごく怒られたことがあるでしょう?



 白亜のお城の宝物庫。大きな石の壁に、主様しゅさまの文字が現れたり、消えたりしています。これは扉ではないため、開きません。もちろん動きません。


 主様しゅさまの時の魔術で、石の壁の存在を否定することによって、初めて宝物庫の中に入れる様になります。



 因みに、天国の最も奥にある秘匿の間は、時の魔術が行使できなければ、絶対に開かない扉らしいです。白亜のお城の封印された、この宝物庫のことも、秘匿の間と同じ名前―“開かずの門”と呼んでいる、お城のメイドもいるみたいですね。




 さて、私は見ました。宝物庫の前に小さな天使がいます。頭上に浮かぶ、小さな銀色の輪っか。精霊の白く光るローブを着た、天使にしか見えません。



 私は大きな声で叫んでいました。少し離れている、天使の子によく聞こえる様に。そして、天使の子が、ふと振り返りました。



 私と天使の子、目が合います。海の様に透き通る青い瞳、青のお嬢様です。私の精霊の糸がくっ付いているので、間違いありません!



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 私は悪魔の女神の娘、希望の魔女ノルン。


 海の様に透き通る青い瞳をもつ人形。今の私の姿は魔女の姿ではないです。光の女神フェルフェスティ様のお陰で、頭上に浮かぶ、小さな銀色の輪っかをもつ天使の姿になっています。



 光の女神フェルフェスティ様は、私に教えてくれました。白亜のお城の地下にある宝物庫。この大きな石の壁の中に、フェルフェスティ様が創った星の核があることを……あれ、私の腕に糸がついてる。



 これは精霊魔術の糸? え!? やばい、誰かにばれた? 



 あれ、あの人。栗色の髪。フリルエプロン、青と白のメイド服を着ていて……。




『青のお嬢様! 今日は大切な会談の日ですよ!?』



 え!? うそ、もしかしてフィナ!? 私はとても嬉しい。だって、亡くなったフィナに、また出会えたから……でも、フィナ。すごく怒っています。



『えっと、ち、違うの。フィナ、落ち着いて。

 フィナは勘違いしていると思うの。だから、落ち着いて……。』




『お嬢様、今すぐ、その扉から離れて下さい!

 あ、こら! それに触れてはいけません!』



『ご、ごめん。違うんだってば……。

 私は、この中にあるものを壊したいだけで……。』



 フィナが驚いている? フィナが一瞬だけ、立ち止まった。呆れている、この言葉がぴったりの表情していて、精霊の糸から、フィナの気持ちが伝わってきます。



 これはフィナの気持ち。『壊す? 天使の子に見える、あのお嬢様は壊すとおっしゃいました? 嘘ですよね? 主様しゅさまの宝物庫にあるものを壊す。そんなことをしたら……。』



『や、やめて下さい! ノルン様、自暴自棄にならないで!

 主様だけでなく、あの嫌味……アシエル様にも、ずっと怒られますよ!?』


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