第84話『再生のsevendays、終わりの時―過去の時の回廊。希望の魔女の最後の悪あがき②』

 ここは過去の時の回廊。知恵の時の歯車と私の再生の時によって形作られた空間。そう、ここは時の狭間。母が譲渡としてくれた異界の門―転移魔術を行使して、あやふやな空間の先へ進んでいきます。



 私は悪魔の女神の娘、希望の魔女ノルン。


 私は、未来から過去へ干渉した。知恵の聖痕―母の時の歯車が私を過去へ、時の流れの中へ連れていってくれる。



 天国には終焉の時が流れている。今、母の時の中に誰も存在しない。


 でも、過去には存在した、私は過去の迷い星テラへ向かいます。



 異界の門で進んでいくと、ふわふわと浮かぶ光の精霊がいた。白く光る綿毛の様な生き物? 暗くなっている場所を、ライトの様に照らしている。遠くを見てみると、ほのかな光が夜空の星の様に輝いていた。


 時の狭間は、天国の真下にある精霊の世界に似ているのかな。精霊たちからすれば、このような場所……位置が定まっていなくて、どこかへ流れていく不思議な場所の方が好きみたいです。



『悪魔の女神の極界魔術。

 帰天きてんの刻―終焉の時。』



 私は天国で母の時を見た。天国と地獄の間には、三つの層があった。下から、霧の世界、異界、精霊の世界。だけど、終焉の時の中では、天国と霧の異界ケイオス、酷く壊れた世界しかない。地獄すら残っていないの。



 あいつが全部壊して、魂や魔力を奪ったから。


 私の大切なものは、母しか残っていない。迷い星テラも、テラの大樹もいない。アメリアお姉ちゃんやウルズお姉ちゃん、霧の人形である姉たちもいない。堕落神―騎士神オーファン、全ての堕落神もいない。



 霧の世界で圧倒的な強さを誇った、霧の人形や堕落神は消えた。彼女たちの力の源だった、11の星の核は母が持っている。


 時の女神の娘が霧の人形や堕落神を殺して奪って、母にあげたから……炎や雷を操る魔術や霧の武器を生み出す能力は、生みの親である母のもとへ。



 私は泣くのをやめて、ゆっくり歩き始める。


 私が保有している、最後の星の核が私に力をくれる。終焉の時? こんな未来は間違っている。だって、これ。皆、誰も生き残っていないじゃない!?



 あいつは、時の女神の娘は生き残りたいのなら、ルーンを導けって言った。ルーンと一緒なら救われるって言ったのに……あいつは嘘つきだ。やっぱり嘘つきだ! 酷いよ。酷すぎるよ!



 私のドッペルゲンガー、あいつは私なら絶対にできないことをした。



 私たちの大切なメイドさん、フィナもいない。私の最愛の魔物、ルーンもいないの。皆、この世界からいなくなってしまった。時の女神の娘が、全部壊してしまった。自分の夢の為に、本当に全てを犠牲にしてしまったんだよ?



《守りたいんでしょう? 白い瞳のルーンを守りたいよね?

 それなら守りなさい。君の力で守れるのならね~。》



 あいつは、利用するだけ利用して捨てたんだ。あいつはあらゆる未来が見える。この結果を知っていて、私にそう言った。助けることができないと分かっていて、私に微笑んだ。愚か者だと馬鹿にして笑った。微笑みながら、私たちを騙したんだ。


 あいつは、来ることのない素敵な未来を皆に見せて、希望があると囁いて……最後にあいつが、皆を殺した。そんな酷い話がある? 結局、殺すのなら最初に殺しておけばいいじゃない。どうして、こんな酷いことを?



 私は過去の時に、迷い星テラを見つけた。過去の時の流れに存在している、迷い星テラを利用して、極星魔術を行使する。 



 私の姿が、幼い人形の姿から変わっていく。白い手足に銀色の髪。海の様に透き通る青い瞳をもつ、霧の人形へ。体は少し大きくなって、銀のガントレットやグリーブを身に着ける。そして、腰から生えた白い翼が、前へ進む力を私にくれる。



 ノルンの極星魔術―希望の聖痕。



 私の希望の翼は、時の魔術―再生の時、皆が生き残っている時の流れを呼ぶ。いずれ、天国に人形の安息の地が、人や魔物も暮らす安息の地が現れるはずだ。



『極星極界魔術・

 帰天きてんの刻―再生の時。』



 私の再生の時は、皆を否定しない。母の時が皆を否定するなら、私の時の中で生きてもらうの。私は、一人は嫌。私の時の中で、皆生きていくの。



『第六の刻―白き人形は希望の魔女となり、再生の時を刻む。』



 私が、皆を招待する。私が皆を助ける。私の物語は、こんな酷い物語じゃない。私は嫌だ、絶対に認めない。母の様に時を奪って、間違った時の流れを否定してみせる! 私の再生の時が、過去から再始動した。




 ここは再生の時、迷い星テラ。龍たちが支配する魔物の大陸。月が淡く、大地を照らしている。遠くに見える、愚かな王の都。見えているのは、都の入り口だけど。



 狂王の地底都市ヴェルグランド。



 魔物の大陸は、亡国である聖フィリス教国の度重なる侵攻、飛空船の砲撃に耐えて、堕落神を守ってきた。飛空船の砲撃に備え、魔物は地下に街を造った。蟻の巣の様に、幾つものトンネルがあり、各都市を繋いでいる。



 魔物たちは、上空から発見されない様に、地下のトンネルの中を移動してきた。迷い星テラに大陸を運ばれてからも、まだ生き残っている。


 

 聖フィリス教国は地獄で滅んだ。三大魔王の1人-狂王は、聖フィリス教国の人間たちに勝った。ただ、その事実を知らない。邪神フィリスを狂信する人間たちが、また攻めてくると疑っている。



 迷い星テラで生き残る為に、力を求めている。他者から奪われない様に、堕落神の絶対的な力を……三大魔王の最後の1人-狂王ヴェルグラは、堕落神―巨神グレンデルの星の核を使って、迷い星テラを奪おうとしている。



 地底都市ヴェルグランドの地下深く、最深部―秘匿の間に、巨神グレンデルの星の核がある。魔物の地底都市の最深部を目指す、命知らずの冒険者たちがいた。



 近くに焚火がある。火が爆ぜる音が聞こえてくる。


 人間と魔物という奇妙な組み合わせ。軍国の冒険者たち―ミランダ・フォーチュン、ロベルト・フィルド、ミルヴァ・カ―ネルの若者たち。三大魔王の二人―幽鬼シャノンと炎鬼クルド。そして、私たちの大切なメイドさん、フィナもいる。私の最愛の魔物、ルーンは焚火の前で座っていた。



 ルーンたちの遠征の目的は、三大魔王-狂王ヴェルグラの暗殺。堕落神―巨神グレンデルの星の核を壊すこと。


 ルーンと幽鬼シャノンは堕落神―不死なる名も無き神に従っている。名も無き神は、狂王と巨神を殺したい。メイドのフィナは、ルーンの護衛。フィナが極星魔術を行使すれば、テラの大樹も現れる。



 軍国の冒険者たちは、名も無き神とある取引をしたから。少数精鋭のメンバーに同行して、狂王と巨神を殺すことができれば……迷い星フィリスに帰還。また、邪神フィリスを殺すことにも協力するというもの。


 地獄の迷い星フィリスでは、転移魔術で現れた憤怒の魔女によって、軍国フォーロンドはしぶとく生き残っている。ロンバルト大陸にある、他の国々も辛うじて滅んでいない。もちろん、聖母のミトラが存在する、聖母の街バレルも。



 堕落神―名も無き神から、軍国の冒険者たちに伝えられた。まだ、軍国は滅んでいない。世界が壊れる絶望の中に、生まれ故郷に帰ることができるという奇跡がまだあることを……炎鬼クルドも、珍しくやる気満々です。


 迷い星フィリスに帰ることができれば、憤怒の魔女―愛する人形アメリアお姉ちゃんに会えるかもしれないもんね。




 私は焚火に近づこうとした。皆に気づいてもらおうと大きな声で叫ぼうとした。皆がまだ生きている。私の時の中なら、皆はまだ生きられる。



 私の足が止まった。あいつがいた。あいつは、何かを捜している。私がいる場所も見たけど、あいつは私を見ない。どうやら、私が見えていない様だ。


 時の女神の娘ー天の創造主でさえ、希望の魔女の未来は見えない。真っ黒で何も見えない。私からドッペルゲンガーに干渉しない限り、見つかることはないはずだ。このまま近づかないのなら、ばれないけど……どうしよう、皆に近づくことができない。ルーンの傍に行きたいのに。



 ルーンたちが私に気づけば……きっと、あいつも私に気づく。未来から干渉していることがばれてしまう。ここでばれては駄目。皆を助けることができない。



 あいつにばれるのは、いや、私からあいつに示してやる。天国にある神々の宮殿で、まだ残っている宮殿の中庭で、あいつに見せつけてやる。


 お前が皆を無慈悲に殺そうとしても、私が皆を助ける。お前は、誰も殺せない。誰も否定できない。お前の負けだと宣言してやる。



 私のドッペルゲンガー、お前はルーンたちを自分の駒だとしか思っていない。馬鹿にしながら、世界を壊して楽しんでいる。99%の未来の中で、勝ち誇って楽しんでいればいいわ。



 私は諦めない。お前に見つからずに残りの1%を残してみせる。私の希望の時の中で、お前は私たちに敗北するの。その時が楽しみだよ。


 絶対に、時の女神の娘に負けるもんか!

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