第83話『再生のsevendays、終わりの時―未来からの干渉。希望の魔女の最後の悪あがき①』

 ここは、sevendays。白い人形の物語の最終章、私の再生の旅が終わろうとしている。そう、ここは全ての世界の真上にある天国です。



 私は希望の魔女ノルン。


 銀色の髪に白い手足。海の様に透き通る青い瞳をもつ、霧の人形。悪魔の女神の娘……私は、母の神具に敗北した。破壊をもたらす勝利の双剣―終焉の時の断絶セイバーは、私に容赦なく現実を突きつける。



 天国の最も奥にある秘匿の間-“開かずの門”がある、古の神々の宮殿。



 私は、神々の宮殿まで辿り着いた。そして、母に会い、敗北した。私と母の時の魔術がぶつかり合い、時が狂う。未来と過去が交差して、私の傍に色んな時が現れた。母の白い霧は、色んな未来や過去を私に見せた。



 私は、過去の時の中にいた、優しい母に手を伸ばした。私と母の決闘? そんなことあり得ない。絶対に間違っている。だから、その未来を変えたい。母を助けたい。私は触れられないと分かっていたけど、過去を変えたくて……必死になって、大好きな母に向かって手を伸ばした。




 私は、神々の宮殿の中庭で座り込んでいる。


 眼を覚ましたら、この中庭にいた。母が転移魔術で、私をとばしたのかもしれない。聞いても、もう答えてくれないので分からないけど。



 もう何も考えたくない。体育座りで、膝に顔を隠す。頬を零れ落ちる涙を、あいつに見られたくない。このままだと、あいつの一人勝ちだ。



 時の女神の娘ノルン、私のドッペルゲンガー。


 私はあいつと同化した。あいつが、私の中で生きているのが分かる。あいつが、世界を壊した。母を騙して、母を苦しめて、自分の願いを叶えようとしている。



 わたしとあいつの願い、大好きな母と一緒に暮らすこと。邪魔者の天の創造者や、邪神フィリスがいない、新しい世界で……。



 私がこのまま動かなければ、母は天国を壊してしまう。全てが壊れて、残るのは、天の創造主と悪魔の女神。そして、あいつだ。


 時の女神の娘は、母を勝たせるだろう。大好きな母を騙して、新しい世界で、一緒に暮らそうと囁くだろう。



 正気を取り戻した母は、あいつの願いを叶えてあげるのかな? 優しい母は、きっと怒る。怒るけど、悲しむけど、自分の娘を抱きしめるはずだ。



 それなら、あいつの一人勝ち。今の私は、あいつに勝てない。大好きな母を、あいつに奪われてしまう。



 私が泣き続けて、このまま何もしなければ、時の女神の娘―私のドッペルゲンガーの勝ち。泣くのをやめて、ここから進んで、秘匿の間-“開かずの門”まで行けば……望んでいない母との決闘が行われる。そこで母に負ければ、やっぱりあいつの勝ち。




 ※時の女神の娘ノルン―天の創造主。

 全知全能(欠落)、(計測不能:∞) → 悪魔の女神に譲渡。



 悪魔の女神は、全知全能(欠落)、(計測不能:∞)を保持しています。




 私は母に勝てない。母を止めることができない。母は致命傷を負っても、膨大な魔力によって時が進めば再び動き出してしまう。正気を失っているから、これ以上狂うこともない。時計の針の様に、正確に、無慈悲に動き続ける。


 

 止めるには、母を消すしかない。時の魔術で完全に否定するしかない。



 時の女神の娘、私のドッペルゲンガーは、勝利を確信している。だからこそ、もう表舞台に出てこない。私と同化して、今ある世界が壊れた後の準備でお忙しだ。私が、母を否定できないと決めつけている。




 ああ、そうだね。私が大好きな母を否定できるわけないじゃん。




 私は再生の時を呼んだ。私の周囲だけ、中庭だけが崩壊を免れる。悪魔の女神の終焉の時によって、宮殿の中庭以外、全てのものが壊れていく。



 私は、時の女神の娘―ドッペルゲンガーに負けて、封印されてしまった。第七の刻―時の封印。封印が解けたら天国にいた。希望の魔女の姿ではなく、人形の姿で……誕生日を迎えて、13歳になった。



 どうやって、ここまで来たのか全く覚えていない。天国に辿り着いた時、誰もいなかった。天の神々はいない。天の創造主が、人や魔物の魂をどこかに連れていってしまった。途方に暮れていると、母が天国に帰ってきた。正気を失って、“時の魔術”を暴走させながら……そして、私は負けてここで泣いている。



 神々の宮殿の中庭で、私は静かに泣きながら過去に逃げた。母の白い霧は、色んな過去を私に見せてくれた。



 その中に、私が知らない、覚えていない時の流れがあった。



 希望の都ラス・フェルトの人魔協定。


 私が封印された直後に、ラス・フェルトの人たちは生き残る為に、魔物たちー獣人や吸血鬼たちと協力関係を築いたみたい。



 過去の時の中に、大好きな魔物がいた。白い人形から吸血鬼になった、聖痕の少女。ウルズお姉ちゃんの時の魔術―傲慢な女神の時の逆転リバースによって、一時的に白い人形に戻ることができる、聖痕の少女。



 私の最愛の魔物。強欲の吸血鬼ルーン・グローリア。




 ※時の女神の娘ノルン―天の創造主。

 知恵の聖痕 → 希望の魔女、悪魔の女神の娘に譲渡。


 希望の魔女、悪魔の女神の娘は、知恵の聖痕を保持しています。




 私はふと気づいた。今、ここにはルーンはいない。時の女神の娘―私のドッペルゲンガーが、私以外、天国に招待しなかったためだろう。


 あいつは、もう表舞台にいない。私の中で、未来の世界に夢中だ。それなら、今なら悪あがきできるかもしれない。あいつが招待しないのなら、私が招待しよう。



 希望の魔女の最後の悪あがき。過去を変えて、皆を天国に連れていってあげればいい。私の邪魔をする者は、あいつのお陰でどこにもいないのだから……もちろん、悪魔の女神は例外だよ。



 ドッペルゲンガーからもらった、母の神聖文字-知恵の聖痕が、私に教えてくれる。知恵の聖痕―母の神聖文字は重なり合い、時の歯車へと形を変える。


 “知恵の時の歯車”は、悪魔の女神の様に、時を止めて、時を加速させて、時を否定する。そして、時を奪うのだ。



 私は、母の時の歯車に命じた。過去の時の流れを変える為に……私が望んだ時を奪う為に。希望の魔女は、未来から過去へ干渉する。




 過去の時の中で、日記を見つけた。白い瞳のルーン・グローリアの冒険日記。私の最愛の魔物、ルーンは日記をつけていたみたいです。



『ノルン、これは貴方の為に書いています。貴方の目の前で。

 ノルン、私の声が聞こえていますか? 


 私は貴方に触れたい。貴方の傍にいたい。

 でも、この青い水晶が邪魔をします。』




 ルーンが私の為に書いてくれた文字が、私を導いてくれる。ルーンが何を考えて、どこへ行ったのか、この日記から分かるかもしれない。この冒険日記を探そう。そして、過去を変えるの。


 私、一人では母には勝てない。時の女神の娘には勝てない。



 このままだと、時の女神の娘―私のドッペルゲンガーの一人勝ちになってしまう。そんなの嫌だ。ここまで頑張ってきたのに、途中から何も覚えていないのに……私は、時の女神の娘には、絶対に負けたくないの。誰か、あいつに勝てる方法を教えて。誰か、アメリアお姉ちゃん、ウルズお姉ちゃん、助けて。



『ルーン、どこにいるの。

 教えて、私を一人にしないで。


 ルーン、私に力を貸してよ。お願い、私の声に応えて。』




 ここは再生のsevendays、終わりの時。もう残された時間はありません。


 知恵の時の歯車が、ルーンの冒険日記が書かれた過去の時を奪っていきます。過去にいた最愛の魔物を、天国にある中庭に呼ぶ為に……全ての日記を集めれば、希望の魔女は全てを思い出すでしょう。


 記憶を取り戻した希望の魔女は、時に呪われた人形は、最後にどんな選択をするでしょうか?


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