第82話『希望の都ラス・フェルトの人魔協定④』
ここは、ラス・フェルトの本庁舎にある本会議場。ラス・フェルトの人間たちと大樹の街エラン・グランデの猫の獣人たちの話し合いは……今のところ上手くいっています。
傲慢な霧の女神様は大人しくされているので、今がチャンスです!
私は白い瞳のルーン・グローリア。
私も、
私たち、吸血鬼にとって、人の血は好物です。
どうしよう、どう答えたらいいかな? 私が困っていると、誰かに指で、背中を軽くつつかれた。振り向いてみると、茶色のクマのぬいぐるみを持っている小さな鬼がいました。
隣にいる獣人のフィナは可愛い鬼に気づくと、少しイラっとして、また私をじーと見ています。『え?……フィナ、私何もしてないよ? きっと、
彼女はめんどくさがり屋?
三大魔王の1人―
転移魔術が得意で、
とても羨ましいことに、吸血鬼の上位種になっておられるので、日の光はまったく問題にならないとのこと。
私は
これからは、
今、私はラス・フェルトにいます。しかも、私と
本当に何が起こるか分からない。でも、状況が好転していくのなら、それはいいことです。皆、最後まで生き残ろうとしています。人間や獣人、吸血鬼……必死にいきているのなら、皆同じです。
誰も傷つきたくない、誰も不幸になりたくない。誰もが幸せになりたい。
私やフィナの前へ歩いてきた、シャノン様は、
堕落神―
意図していないこと。例え、偶然の事故であったとしても、重大な損害が生じた場合は、即座にお前たちを敵とみなす。
我々、魔物の
そして、私たち、
魔物の
この時、迷い星テラに住む、ラス・フェルトの住人たちと魔物―獣人や吸血鬼たちは、お互いに戦闘行為、威嚇や脅迫行為のなどの敵対行為を行わないこと。この点において合意することができました。これだけでもすごいことです。
今は形だけで、具体的には何も決まっていませんが、とりあえず協力関係―ラス・フェルトの人魔協定を結ぶことはできそうです。
問題はこの協定の中身です。ここからが本番で、どうやってお互いの存在を認めて、尊重していくのかを具体的に定める。細かい規則やその罰則も決めないといけないでしょう。『この話し合いは難航しそう。あとは、シャノン様やフィナに……私、ここにいるだけになってる。仕方ないね、だって分かんないもん。』
大樹の街エラン・グランデの猫の獣人たちは、新たな狩猟と採取の方法を示してくれました。私たち、吸血鬼にとっても、ラス・フェルトの人間の血を吸えないので、とても興味があります。
エラン・グランデの猫の獣人たちは、精霊について語ります。炎や雷、風、氷といった色んな精霊たち……猫の獣人たちは精霊と契約して、体内に宿します。
精霊と共に生きてきたことを、豊穣への感謝・祈り―精霊祭、獣人たちのお祭りのことも教えてくれました。
重要な言葉が、“契約精霊の捕食”です。
聖フェルフェスティ教では、光の女神フェルフェスティ様の原初の子らとして、精霊がでてくる様で、教えを受けているラス・フェルトの人間たちには受け入れることができる存在の様です。ただ、聖フェルフェスティ教の教えの中でも、良い精霊がいれば悪い精霊もいます。
獣人のフィナが提案した、住人の精霊化計画は破棄されていません。突拍子もない計画だと思っていても、一旦保留……いつか、精霊という存在になりたいという思いがあるのかもしれません。
肉体から解放されて、植物や動物、無生物、人工物。そして人や魔物などに宿る。人や魔物からすれば、肉体という苦痛をもたらすものから解放される。そのことへの憧れがあるのでしょう。
再生の聖痕、聖痕の少女だった私からすれば、今の吸血鬼の方がいいけどね。だって、肉体がなくても痛みはある。苦痛は無くならないから……精霊は精霊でつらいことがあると思う。やっぱり、必死に生きているのなら、皆同じだよ。
えっと、それでエラン・グランデの猫の獣人たちは、新たな狩猟と採取の方法―契約精霊の捕食を説明しました。
文字通り、契約している精霊が、周囲に満ちている魔力を食べるそうです。精霊が食べることで、捕食した魔力を消化―生命維持に必要なエネルギーに変換。ただ、この契約精霊の捕食に頼るのは、非常事態に限るとのこと。理由は、捕食によって得られるエネルギーが少ないからです。
熊の冬眠や虫の
精霊たちは、“なりそこない”を嫌っている。精霊にもなれず、獣人にもなれない。堕落して生きることをやめた者の末路……なりそこないは、獣人たちによって狩られています。
この新たな狩猟と採取の方法―契約精霊の捕食は、有益なものでした。
シャノン様と
シャノン様の転移魔術で、この珍しい星を訪れるのもいいかもしれません。
ラス・フェルトの人間たちで話し合って、短く整えられている黒い髭がトレードマークの渋めのおじさん。警備兵の隊長―髭の隊長さんが、契約精霊の捕食について担当することになりました。
行政組織側のうら若き女性―クスシヘビのご婦人は、すでに霧の世界フォールの魔術について担当しています。なぜそうなったかと言うと、テラの大樹と関係があって……ラス・フェルトの都の治安について報告がありました。
現在、被害にあった女性や子供は0とのこと。本当に0です。これだけでも、奇跡だね。『うん、奇跡の都ラス・フェルトに相応しい……可愛いお人形さん、ノルンの夢を、テラの大樹も叶えようとしてくれている。
光の大樹様は、女性や子供の守護者かな。テラの大樹、やればできるじゃない!』
この結果は、テラの大樹が、優先的に女性や子供を守っているためです。例えばですが夫婦喧嘩でも、光の大樹が仲裁に入って……問答無用で、旦那を光の根っこでぐるぐる巻きにして、ミイラの様にしています。怪我はしません。自由に動けないけど、ミイラになるだけです。
霧の世界フォールの魔術、星間循環システムの行使についても、テラの大樹は行使できるものを、女性や子供に限定しています。
今後、獣人のフィナやテラの大樹から教わって、クスシヘビのご婦人はテラ・システムを行使できる様になるでしょう。システムを理解できれば、魔術の応用も可能となります。
クスシヘビのご婦人は、このラス・フェルトの本庁舎に、“大樹の巫女部”という新たな
被害にあった女性や子供は0。テラの大樹は魔術を行使できるものを、女性や子供に限定していることから、大樹の巫女になりたいというご婦人が殺到しているらしいよ。私も、あとで覗いてみようかな。
もし、奇跡の都に、誰かを傷つけようとする愚か者がいたら?
ああ、迷い星テラでは気をつけて。光の大樹が問答無用で、光の根っこでぐるぐる巻きにして、ミイラの様にするから。
悪いことをすれば捕まるでしょう? 皆の街と同じだよ。
地獄の悪魔、“魂を盗む、
ミイラになった旦那? さあ、どうなったのかな。
ああ、貴方は大丈夫だよ、だって、貴方は紳士でしょう?
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