第3章 悪魔の大厄災の続き~三人目の主人公!? 白い人形のウルズは、星々を救う?

第52話『獣人の星で……白い人形のウルズは、獣人の勇者に出会う①』


 私は、フェル・リィリア。金色の髪と青い瞳……今、左腕が痛い。若葉色に光る木の腕輪、ロングアームレット。テラの大樹? 左腕の肘より上に巻きついて……。


 これが、テラの大樹の根っこ。テラの大樹は、私の傍から離れたくないって……女神様が落とした天のピースというものが、水の都ラス・フェルトにある。しかも、私と関係があるらしい。



 左腕の痛みは、ラス・フェルトにある天のピースによるものらしい……困った。分からないことが多すぎるよ。


 水の都ラス・フェルトで、強国グルムドの兵に襲われて、地獄の悪魔に遭遇して……気がついたら、地獄の中層に落ちていた。


 光の柱が星を壊していて、数えきれない程の地獄の悪魔が、獣人を襲っている。まさに、終末だね。



 ここは、獣人の星……この星には、人に近い生き物、魔物の獣人が生息している。魔物……絵本や小説の中でしかでてこない、架空の生き物。存在しない生き物だったのに。


 小さな獣人の村。深い森の近くにあって……今、私の目の前に獣人がいる。黄色の耳と尻尾が生えている……猫の獣人かな。



 獣人の家族、たぶん兄と妹……。


 獣人の少年は、私と同じ身長で、同じ金色の髪。髪の毛が同じ色なので、少し親近感がある。人と比べても、少年の体は細い。猫の獣人は体が大きくないのかもしれない。ほら、普通の猫って、体が小さくて俊敏なイメージが……。



 獣人の兄と妹……兄にしがみ付いている女の子は、怖い思いをしたみたい。眼が真っ赤。獣人の少年は焦っている。


 逃げ場がない、もう囲まれている。赤い眼の悪魔、ドロドロの黒い悪魔に……。



 私は走り出した。もちろん怖い。でも、私の傍には……ウルズ様がいる。私の目の前に、助けを求めている人がいる。獣人だって……魔物だって、同じ生き物。私の助けたいという気持ちは伝わるはず……。


 私は、ドロドロの悪魔バグの横を通り過ぎた。視線を感じる。バグの赤い眼に見られた……怖い、怖い! 足を動かして……。


 私、止まるな。とにかく、走れ……走れ、走れ!



 赤い眼の悪魔が追いかけてくる。私は、すぐに捕まってしまう……ドロドロの黒い悪魔は、“魂を盗む、ただれた亡者”。獲物を捕まえると、獲物から魂を奪う。悪魔の体は、ドロドロの液体だけに……やがて、底なし沼みたいになる。


 捕まった獲物には、致命的な外傷はない。だけど、獲物は死亡している。息をひきとっている。獲物の体の中に、魂がないから……。


 

 赤い眼の悪魔、バグのドロドロの手が、私に触れ……触れようとした時、ピタッと止まった。私たちの近くにいる、悪魔バグが全員止まっている。



 私は、獣人の少年に近づいた。猫の耳を生やした女の子は怖がって、兄の後ろに隠れてしまった。獣人の少年は、文字が刻まれた小型の剣を構えて大きな声を出した。


「※、※※※! ※※※※、※※※※!」



 獣人の言葉は分からないけど……彼が威嚇しているのは分かった。これ以上、近づくなってこと?……どうにかして、獣人の言葉を。


『……フェル、獣人の言葉、理解できない。

 私の根っこ……獣人の兄と妹にくっつける。


 精霊魔術、それで……大丈夫。

 ……考えていること、分かる。』


 テラの大樹が、私に教えてくれた。精霊魔術?……魔法でどうにかできるのなら。私は思った。「テラの大樹、お願い……できるだけ、ウルズ様の負担を減らしたいの。」


 テラの大樹は、私の願いを叶えてくれた。私と獣人の妹さんを根っこでつなげて……それから、妹さんから兄につなげたみたい。


 その順番の方が安全とのこと。テラの大樹が考えて、リスクを排除してくれるのは助かる。誰だってできるだけ、怖い思いはしたくない。


 弱い私は、より注意しないといけない。獣人たちにも……赤い眼の悪魔に襲われて、獣人たちの気が動転している時は、特に……。



「私の言葉が分かりますか?

 この村の近くに……大きな街はありませんか?


 近くにあるのなら、そこに逃げましょう!」



 私は、獣人の兄と妹に声をかける。言葉が分かり……私が丸腰だと気づいて、獣人の少年は小型の剣をさげた。彼が、急に動かくなった赤い眼の悪魔を見ながら……。


「女、お前……どこからきた?

 どうして、俺たちの言葉を話せる?……答えろ!」



「……私は、フェル・リィリア。

 水の都ラス・フェルトから来ました。


 今、テラの大樹が助けてくれているので……。

 貴方たちと意思疎通をとることができます。


 テラの大樹、精霊魔術のおかげです。」



「……精霊魔術? どこに精霊がいる?

 それにテラの大樹? そんな精霊、聞いたことがない。


 お前は、あいつらと一緒だ。お前はあいつらの仲間だ。

 赤い眼の悪魔の横を通っても、すぐに攻撃されなかった。


 お前は、俺を騙そうとしている!」



「していません! 怖いのは分かるけど―」



「怖い!?……俺が!? 

 女、俺をよく見ろ! 


 俺は、雷撃の獣人だ。

 俺は体がでかいだけの馬鹿な魔物じゃない。

 

 雷の精霊と誓いをたてた。

 女、嘘をつくな……殺すぞ?」


 怖いのは分かる。それを認めたくないのも……プライドの高い男ならありそう。だけど、さっきから、失礼だ。女?……私は名乗ったでしょう?


「……怖くて聞き取れなかった?

 私はフェル・リィリア。貴方の名前は?」


「悪魔の仲間に名乗る、名前はない。

 女、死にたくなかったら、俺の前から消えろ!」



「……あ、そう。賢いのならよく考えてよ?

 

 私が、バグの仲間なら……なんで、

 貴方たちを逃がそうとするのよ?」



「それは……俺たちを騙して―」


 私は、近づいた。獣人の少年が剣を構えるけど、気にしない。テラの大樹が、私に教えてくれたから……この少年は、私に殺意をもっていない。危害を加えるつもりがないと……私は、獣人の少年の上着のえりあたりを掴んだ。


「なっ!? 女、やめ―」


「さっきから、失礼でしょう!?

 私の名前はフェル……フェル!


 私を威嚇してどうするのよ!?

 妹さんを守らないといけないでしょう!?



 こんな時だから、しっかり考えないといけないの!


 はっきり言って……貴方、ムカつく!

 私の名前はフェル! 分かった!」


 テラの大樹が教えてくれた。『フェル、白い霧が囁いている……七つの元徳の一つ、節制。“雷の精霊”に効果を発揮。フェル・リィリア。節制の聖痕を発動、可能だって……その少年、雷鳴魔術を行使しようとして……失敗した。』


 私は、七つの元徳の一つ、節制の聖痕を発動した。たぶん、発動できていると思う。節制の聖痕は、雷の精霊だけでなく……獣人の少年の魂も抑えていく。


 

 私に揺さぶられて、雷の精霊を抑えられて……気持ちが落ち着いたのか、獣人の少年は降参した。


「!?……わ、分かった。

 フェル、やめてくれ!」



「分かってくれたのなら……いいわ。

 私だって、時間はかけたくない。

 

 ……貴方の名前は?」



「……俺は雷撃の獣人、ラル・トールだ。

 こっちは、妹のソルネ。」


 兄と同じ金色の髪の女の子が、獣人の少年ラルの後ろから顔を出した。私は、ソルネに微笑んで……頭を優しく撫でてあげた。


 テラの大樹が、ソルネの頭を撫でている私に伝える。『……フェル、悪魔バグ。数が増えている……ウルズ、傲慢の烙印で止めているけど……数が多いから、そろそろきついって……ウルズ、こっちにくる。』



 私たちの周囲にいる、赤い眼の悪魔バグ。ドロドロの黒い手が動いた。ウルズ様でも、全てのバグを操れなくなりそうに……いったいどれ程の赤い眼の悪魔がいるの?……獣人の少年ラルが、私に声をかけた。


「フェル、精霊魔術を使って……こいつらを殺そう。

 こいつらを殺して、皆の仇を……。」


「!? ラル、だめ! バグを殺しては駄目!」



「……悪いが、それは無理だ! 


 こいつらは、いきなり現れて。

 皆を殺した……俺の両親も……。


 今、動けないんだろう? 

 だったら、この機会を逃すかよ!」



 獣人の少年ラルは駆けた。私の節制の聖痕が、彼に宿っている雷の精霊を抑えている。彼は雷鳴魔術を使わない。彼は正気を保ってる……よく考えた上で、赤い眼のバグを殺そうとしている。



 節制の聖痕では……落ち着かせることはできても、ラルの体を完全に止めることはできないのだ。


 獣人の女の子ソルネが、私にひっついた。怖がっているソルネの傍から離れるわけにもいかないし……私は必死に叫んだ。


「ラル! バグを殺したら……皆、助からないよ!

 

 ソルネも、皆……死んでしまう!

 だから、やめて! バグを殺さないで!」



「……どうせ、誰も助からないさ。

 だったら、ここで一匹でも……殺してやる!」



 獣人のラルは、小型の剣を両手で握って……上段から勢いよく、振り下ろした。



 何かが落ちた音がした。ラルの小型の剣が……少し離れた所に落ちている。ラル本人も驚いている。どうして、剣を手放したのか理解できていない。


 ラルは悲しんでいる。ラルは怒っている。右手で握りこぶしをつくって、赤い眼の悪魔を殴ろうと……振りかぶった。



《まったく……フェルが、

 殺すなって言っているでしょう?

 

 殺したらどうなるかも、

 分からないくせに……。


 殺そうとするな、馬鹿。》


 獣人のラルの頭上に、黒い鳥がいた。白い手足に、銀色の髪。魂を惑わす紫の瞳……黒い翼を生やした、天使様。


 白い人形のウルズ様が、ラルを止めてくれた。私はほっとして……獣人の女の子ソルネの手をとって走り出した。


「!? くそっ、なんで動かないんだよ!?

 

 おい、チビ! お前だろ!?

 ガキのくせして―」



《お前……今、なんて言った?》



 獣人の少年ラルが跪いた。地面に顔をつけて……ラルはまた驚いている。自分に起こっていることが分からないと、とても怖くなる。ラルが不安と恐怖に負けて……叫びだす前に助けてあげないと。


「ウルズ様……待ってください!」


 

 黒い翼をもつウルズ様が、ラルを見下ろしている。


 さっきも、赤い眼のアメリア様と喧嘩していた。子供扱いされて、ウルズ様が怒っている。ウルズ様がラルを殺す前に……私は、ラルの傍にきた。



「ラル、死にたくなかったら……。


 失礼なことを言ったことを、ウルズ様に謝って。 

 ウルズ様が、赤い眼の悪魔の動きを止めているの。

 

 今……ウルズ様が、ラルの体も操っている。

 馬鹿なことを考えないで。」



「……ごめんなさい。」



《ガキにガキって言われても、

 私、大人だから……。


 マナーの知らない子供を、

 叱ることは大切だけど。

 

 イライラとした感情を、

 そのままぶつける様なことはしないわ~。》



「……今、ぶつけて―」


《これはしつけ!……私は、怒ってない。

 叱っているのよ。分かった、クソガキ。》



「……はい、分かりました。」



 獣人の少年ラルが、ゆっくり立ち上がって……手足に怪我はないか確認している。ウルズ様は、獣人の少年ラルをじっと見ている。


 

 黒い翼をもつ天使様が呟いた。



《……アメリア、この星にあった。

 だけど、これだけでは……フィリスには勝てない。》



「?……ウルズ様?」


 私は不思議に思った。「分からないことが多い……フィリス様に勝つ? フィリス様が、光の柱を創った?……光の柱は、星々を攻撃している。どうして、フィリス様はそんなことを……。少しでも分かればいいんだけど……それに、ラル。ラルも、なにか関係があるの?」


 

 私が考えていると、テラの大樹が教えてくれた。


『驚いた……獣人の少年ラル。

 フェル、貴方と同じ……。


 獣人の少年は……白い霧に選ばれている。』

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