第3章 悪魔の大厄災の続き~白き太陽と地獄の悪魔。
第44話『光の女神フェルフェスティは祈る。終末の世界で、聖母フレイとミトラ枢機卿は……①』
私は―光の女神フェルフェスティ。天国の真上、“高み”で、ヘブンズ・システムを育てている。天の創造主を殺す為に……。『主を殺す。不可能に近いけど……。』
ヘブンズ・システムが、私に教える。多くの人や魔物が、助けを求めている。彼ら、彼女らの祈りの声が聞こえきた。だけど、私は何もできない。世界の外にある、“高み”に幽閉され、ここから出られない。苦しんでいる人や泣いている魔物たちを助けることはできない……。
悪魔の大厄災。霧の世界フォールの白い霧が、異界の星々を襲っている。霧の中を蠢く悪魔が、沢山の人や魔物を殺した。殺し続けている……。悪魔に魂を奪われない様に、天上の神々に魂を奉げるものもいた。天に魂を奉げれば、天国に辿り着くことはできるけど……。
天上の神々は、高みに幽閉されているから、天国に辿り着いても迷える魂を救う者はいない。救うどころか、ヘブンズ・システムが、天国で迷う魂を捕まえて……喰っていく。人や魔物の魂・魔力を吸収して、育っていく。私が、ヘブンズ・システムを育てている。主の望みを叶える為に……。『……人や魔物の子らよ、私を憎め。せめて、苦痛のない消滅を……。』
ヘブンズ・システムは、時の女神の娘―天の創造主が、天のピースの三つの欠片から創ったもの。時の女神ノルフェの落とし物、天国の鍵(天のピース)No.3~No.5。天の創造主は、自分が創ったものに殺されることを望んでいる。
主は、全知全能だ。本当に、主を殺すことが可能なのだろうか……。一つの解決策として、主は時の女神の娘を使って、娘から母へ……スキル・全知全能(欠落)を、悪魔の女神に譲渡しようとしている。
新たに、全知全能なるものを創り出すことで……。リバースデイ(再誕の日)は、近い。終末のあとに再生が訪れる。
ヘブンズ・システムが、私に伝える。霧の世界フォールの真下……地獄の上層に、聖神フィリス―天の創造主がいることを……。私は、見守りながら祈った。『……どうか、これ以上、ノルフェが苦しまない様に……。どうか、あの子の娘たちが、不幸にならない様に……精霊たちの祝福が届きます様に……。』
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ここは、地獄の上層、星の墓場。真上の霧の世界フォールから、星が落ちてくる。数えきれない程の落下星。霧の世界や異界の星々が……地獄の下層まで、どんどん落ちていく。
地獄の下層。世界の底までくると……そこには、巨大な壁があった。落下星は巨大な壁にぶつかり……星々は粉々に砕け、膨大な熱を放出。世界の底には、灼熱の海ができていた。
世界の底にある、巨大な壁。星々がぶつかっても、壁には傷一つもない。この巨大な壁は動いていて、何かの一部らしい。世界の外にいる、巨大な何か……天上の神々でさえ、大き過ぎて分からない。
また、上から……星が落ちてくる。星々の中に、迷い星もあった。白い霧に包まれた、迷い星フィリス。正気を失った、悪魔の女神によって地獄に落とされた。迷い星は、異界に上がったり、地獄まで落ちたりして……ふらふらと彷徨っている。
迷い星フィリスは……今、終末を迎えている。空の景色が一変した。太陽が昇らない。闇に包まれて、夜が明けなくなってしまった。
気温は急激に下がり始め、雪が降り積もり、海は凍っていく。太陽の恩恵を得られない。このままでは、農作物は育たず、家畜も飼育できない。食料を蓄えていても、すぐになくなってしまう。
空に輝く太陽……フィリスの生き物は、生きる糧を失ってしまった。太陽が昇らない。太陽が無くなったことを裏付ける様に、真冬の寒さ。しかも、さらに気温は下がり続けている。
人や魔物は絶望した。人々は、民家や教会の中に閉じこもり、暖炉の火に薪をくべて……何とか、寒さをしのごうとしている。
聖フィリス大陸にある、聖神フィリスの聖域。雪が降り積もり、銀世界に……。暗闇の中、街の明かりが微かな温もりを届けていた。
ノルフェの白い霧が、私に伝える。その街は、バレル。ロンバルト大陸にある、軍国フォーロンドの首都だったけど、女神のレプリカによって、聖神の聖域にとばされてしまった。もう軍国の首都ではない。
この街は、バレルの住人から……今は、“聖母の街バレル”と呼ばれている。終末の中でも、少しでも、希望を持つために……。ヘブンズ・システムが、ある者を見つけた。街の上空に浮かんでいる。どうやら、岩石魔術を行使して、周囲の重力を操っている様だ。
金色の長い髪に、尖がった長い耳。古代エルフ文明のものだろうか、木彫りの腕輪や首飾り。聖フィリス教会の衣類。装飾された、袖のない
星の核。天国にあった、12の星の核の一つ。私―フェルフェが、精霊たちと共に創ったもの。天国と地獄を含めても……世界に12個しかない。エルフの女性は、星の核を保有していた……。
ノルフェの霧のシステムは、星の核に、神生紀の文字を刻んでいる。堕落神、“聖母フレイ”と……聖母は、精霊魔術の糸を使って話し始めた。
「……ミトラ、本当に良いのか?
失敗する可能性もある。」
「聖母様、お願いします!
何もしなかったら……。
寒さで、皆死んでしまいます。
明日は来ません。だから……お願いします!」
ヘブンズ・システムが、聖母の話し相手の女性を見つけた。赤いリボンと金色の髪。歳は30歳くらい。聖フィリス教会……騎士団や神官、人溜まりの中心にいた。聖神フィリスと聖母フレイの像が、人々を見守っている。
ミトラ・エル・フィリア。聖フィリス教の枢機卿。聖母フレイの代弁者。ミトラ枢機卿に、招魂魔術を行使したあとがある。普段は、聖母フレイが宿っていて……。ミトラの体の中から、聖母が外に出ても……聖母とミトラの魂は離れていない。精霊魔術の糸でくっ付いていて、二つの魂が同化している。ミトラ枢機卿と聖母フレイは、話を続けた。
「聖母様、天の門は使えないのですか?
もし、可能であれば……ノルン様やルーン様の様に―。」
「無理だ。フィリス……あの愚か者が、
天の門の行使を拒否しておる。
ノアの箱舟や、他の飛空船2隻も動いておらん。
バレルの近くに不時着しておる。
フィリスは、この星から……。
誰も逃がすつもりはないらしい。」
「………………。
聖母様、どんなに危険な方法でも……。
私たちは後悔しません。
だから、お願いします。この星に住む、
全ての人や魔物は、生きたいと思っています。」
「………………。
ミトラ枢機卿、一つ条件がある。」
聖母は、わざと、ミトラ枢機卿と呼んだ。ノルフェの白い霧が教えてくれた。ミトラは司教だったけど……。聖神フィリスと聖母フレイが復活した際、ミトラ司教は、聖母フレイを宿していることが重要視され……急遽、枢機卿に選ばれた。臨時として……。正式なものではないので、改めて、枢機卿たちから承認される必要がある。
簡単に言えば、ミトラは聖フィリス教の厄介ごと、その矢面に立たされた。最悪、狂信者デュレス・ヨハンの悪事、飛空船カーディナルで、軍国の首都バレルを襲撃した罪を、代わりに問われる可能性がある。飛空船カーディナルの乗組員の生き残りは、傲慢の魔女ウルズを除いたら、ミトラとデュレスしかいないから……。ミトラは、それを分かった上で、枢機卿の責務を引き受けた。聖母は、それが気に入らない様だ。
「……聖母様、何ですか?」
「……我は、フィリスが気に入らない。
この星で広まっている、教えも……。
だから、全て変える。それでも良いか?」
「………………。
聖母様がお救いになれば……。
自然とそういう流れになると思います。
私は、聖母様と共に……。
歩ませて頂きます。」
「……そうか。では、無事に生き残った時、
聖フィリス教を、聖ミトラ教に変えよ。」
「!?……聖母様、私の聞き間違いでしょうか?」
「聖ミトラ教だ……先に言っておくが、
聖フレイ教にするのは許さない。」
「………………。」
聖母フレイは、ミトラ枢機卿を守りたい様だ。どんな手を使っても……。上手くいけば、ミトラは枢機卿の地位を確かなものに……。ただ、これが新たな火種となることは間違いないけど……。
街の上空に浮かんでいる、聖母フレイは笑っている。聖母が、先のことを考えて、楽しんでいる。聖母も、堕落した神……ミトラが答えず、黙ってしまうと……。
「ミトラ……この条件をのまないのなら、
我は、この星を助けない。」
「…………分かりました。
聖母様、お好きになさって下さい。
そうできる様に努力致します。
ですので、助けて下さい! お願いします!」
「よし、いいぞ……助けよう。」
聖母フレイは、両目を閉じた。極星魔術を行使する様だ。この星の転移装置、天の門(偽物)は、聖神フィリスに拒否されて行使できない。因みに……本物の天の門は、精霊の世界にある。
聖神フィリス―天の創造主は、皆を騙した。霧の世界フォールの堕落神や霧の人形、そして、時の女神ノルフェスティも……。全ては、創造主の計画の為に……。
ヘブンズ・システムが、私―フェルフェスティに伝える。聖神フィリスが、極星魔術を行使しようとしている……。
『主は、天国と地獄から監視して、
必要なものを全て集めるつもり……。
このまま、全てを犠牲にして、
主が望みを叶えたら……。
新たな創造主が、新たな世界を創る。』
全ての元凶である、聖神フィリス―天の創造主がいない世界……。天の創造主によって生まれた、憎しみや悲しみも、古い世界と一緒に消えるのだろうか……。もし、負の感情が消えないのなら……私はきっと、新しい世界を赦せないだろう。
『ノルフェを犠牲にして……。
そんな世界いらない。
主よ……貴方だけが消えて下さい。
それが……全ての世界に住む、
人や魔物の望みです。』
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