ミ・ティエラ

フカイ

1 9 5 9 / キ ュ ー バ



 わが(ミ)美しき故郷(ティエラ)より

 わが(ミ)聖なる故国(ティエラ)より

 ドラムとティンパレスの叫びが騒がしく聞こえる

 故国を遠く離れて暮らす兄弟がリフレインを歌いあげ

 そして思い出が彼に涙をもたらす

 彼が歌う歌は彼自身の痛みと

 涙から湧き上がるのだ

 そして彼の泣き声が聞こえる


 あなたの祖国はあなたを傷つける

 あなたの祖国はあなたが去った後、その魂を殴りつける

 あなたの祖国はあなたを根こそぎ押し倒し

 あなたの祖国はあなたがいない時、ため息をつく


 あなたが生まれた国は、決して忘れることができない

 そこはあなたのルーツと、置き去りにしたすべてを持っているから



 Gloria Estefan "mi tierra"




 赤銅色の丘の上には、濃い緑色をしたサトウキビが一面に生えている。真っ青な深いブルーの空と、白く輝くような入道雲。ずっと変わらずにいた、わが故郷ミ・ティエラ、キューバの風景だ。

 19歳のわたしは、重い機関銃を脇に抱えながら、とぼとぼとその丘をのぼっていた。肩にはわたしたちを自由へと導く銃弾のベルトをかけていた。

「兄ちゃん、怖くないか?」

 わたしは兄に尋ねた。兄は首を振って

「安心しろ。丘を越えれば、司令官コマンダンテがいる」と言った。

 兄がそういうのなら。

 私は村にやってきたコマンダンテの顔を思い出していた。そうしうサトウキビ畑の中に引かれた真っ直ぐな道を、黒鉄くろがねの機関銃を両手で背中に背負って、歩いていた。

 灰色の横縞模様のトビが、はるか上空で、弧を描いていた。

 その時だった。

 深緑のサトウキビ畑の丘の向う。

 真っ青な空のなかに突然、耳をつんざくような爆音とともに一機のプロペラ機が現れた。機首にブルーの縦帯。政府がアメリカ軍の払い下げを購入したマスタングだ。

 戦闘機はかすかに機体を傾げていた。雨滴型のキャノピーのガラス窓が、まぶしい陽光に反射したのをわたしははっきり覚えている。戦闘機の乗り手はそうやって地面を見、そこにわたし達がいたことを確認したのだ。それから戦闘機は鼻先を上に向け、優雅にその場で一回転してみせた。空の真ん中で宙返りする時、そのきれいな羽根がまた、キラリと陽光を反射するのが見えた。


「ぼんやりするな、走れ!」

 と兄は言った。

 そしてわたしの手を引いて、サトウキビ畑のなかに連れ去った。硬いサトウキビの茎が顔や肩にバチバチ当ったのを覚えている。すると、はるか頭上に思えた戦闘機のエンジン音が、あっという間に近づいてきた。

 そして、短い間隔で鳴り響く雷鳴。耳の真横で雷が落ちたかのようなもの凄い轟音が、幼いわたしのまわりの空間を満たした。サトウキビが奇妙にひしゃげ、折れ、穴を開けた。あるものは水しぶきを上げて飛び散り、そして赤銅色の大地が何箇所もはじけた。その土飛沫があたりに立ち込めた。

 サトウキビ畑を走るわたしたちの後ろから近づいてきたそのとどろきは、あっという間にわたしたちを追い抜き、そして消えていった。あたりには、青草のムッとするような、でもどこか甘い草いきれと、赤土の匂い、それから消すことの出来ない火薬の匂いがたちこめた。

 あまりの驚愕に、半分意識を失っていたわたしだったが、それがその戦闘機の機関砲の掃射であったことに、後から気がついた。


 わたしはその時、生まれて始めて、どこかの誰かに機銃掃射の的にされた。


 どこかの誰かに、意図を持って殺されようとしたことに気づいた。これは戦争なんだと、その時初めて気づいた。

 わたしの村に訪れたハンサムなコマンダンテは、アメリカのやり方を責め、そしてミ・ティエラがどんな風におとしめられたかを熱く語った。わたし達は南国の未開の人種ではないのだ。民族の誇りと知恵を持った立派な国際市民なのだ。

 だから、わたしたちは、パチスタ将軍とハバナをとさなければならなかった。コマンダンテは、それを革命レヴォルシオーンなのだと教えてくれた。わたし達は、レヴォルシオーンに参加するのだと、そう、信じて従軍した。太平洋やヨーロッパで行われていた第二次世界大戦や極東の半島での戦争などとはちがう、もっと崇高なものなのだと。


 しかし。

 走りながら、サトウキビの林の間に途切れ途切れに見える空は、どこまでも深く。そして、もう一度旋回する戦闘機の銀色の光は鋭く。わたしを夢から醒めさせるに十分な力を持っていた。レヴォルシオーンでも、戦争でも何でも良い。とにかく今を生き延びなくては。兄の手を振り切り、わたしも自分の力で駆け出した。

 

 

 


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