モノグサ男と地縛霊の女
八月の夏季
第1話 プロローグ
───天国行きにも地獄行きにも、貴様の乗るべき路線は何処にも存在しない。
どうやらあたしの将来はお先真っ暗らしい。
就活も著しくなかったし彼氏にも捨てられたし、生前と変わらず死後でもあたしの将来はお先真っ暗どころかお先真っ黒みたい。
そもそも天国にも地獄にも行けないなんてそれ何て死の手帖? そんな危険物使った覚えも拾った覚えも無いんだけど……。
というか目の前で偉そうにふんぞり返ってる恰幅の良いオジサンは誰? もしかして死神? 大穴で死神大王?
───儂は生前の
大王は大王でも大王違いだったか……はいはい。簡単に纏めると進路担当者って事ね。
それで、あたしの進路は余り著しくないって話だけど一体どういうこと?
───其れは他でも無い貴様が一番良く知っている筈。
そんな事言われてもねぇ……って、よくよく人生を振り返ってみたらここ数年の記憶が余り残ってない。なんで?
な、何か急に怖くなってきたんですけど……。
───未だ現世に未練が残っている霊体は天地、其の
つまり、端的に言うと……?
───現世に戻り未練を断ち切るか棄てるかの何方かを成して来るが良い。
え? この記憶があやふやな状態で思い浮かびすらしない未練をどうやって断ち切ればいいの? どうやって棄てればいいの?
───では行け。
▼
唖然とした。
あたしは瞬きをしている間にどこかの部屋に移動させられていた。
どうやら閻魔大王は人知を超越した強大な力を持っていたみたい。
ブルブルと背筋が凍りつく。
今度会う時があったらタメ語で話すのはもう辞めよう……。
それから少しして気分が落ち着いた頃、部屋の探索を始める事にした。
間取りは狭いけど風呂とトイレがある。
ベランダから外の景観を見てると何だか懐かしい気持ちになった。
もしかしたらここがあたしの住んでた家なのかもしれない。
ふと今居る建物の表面を見てみるとシミやアカで大分小汚い見た目のアパートだった。
本当にあたし、ここに住んでたの?
内側はとにかく外側の印象がこんなに最悪なアパートに好き好んで住むような女だったかな……。
あ〜思い出せない。
何も分からなくて不安だけが積み重なっていく。
それでも未練を断ち切ってちゃんと成仏する為に気分転換を兼ねて外を見回ろうと玄関を開けて外に足を踏み出す。
───のだが、外廊下に踏み出した足は見えない力に阻まれて部屋の中に押し返されてしまった。
どういう事なんだろう。
もしかして閻魔大王の仕業だろうか?
いや、そうじゃなく地縛霊の類いになった可能性の方が高いかもしれない。
そう思った理由はそっちの方が生前の未練を探りやすいと思ったのと何でもかんでも閻魔大王の仕業と考えるのは思考を狭めると思ったから。
よし、地縛霊なら地縛霊で仕方が無い。
今から本格的に家全体の探索を始めるとしよう。
▼
そして、あたしは地縛霊生活二年目を迎えた。
霊なのに生活って……とかいうごもっともなツッコミは無しの方向でお願いします。
この二年の内にあたしの住んでたと思われる部屋に入居者が何人か入ってきた。
そのほとんどがあたしの姿が見えなかったみたいで少し寂しかったから気付いてもらう為に物とか動かしたり電気をパチパチとオンオフしてたらこぞって「ポルターガイスト現象!?」と怯えられる始末。
五人目くらいで物を動かすのと電気のオンオフは自重した。
あたしはもうこの世のものじゃないから見えないのは当たり前よね。と、一人啜り泣いたのはもう一年以上前の記憶───その次の日に何故か五人目の住民は引っ越して行っちゃった。
何故……?
やばい。未練とか全く思い当たる節が無いよ。
部屋の探索はやること無さすぎて暇だから毎日行ってるけど手掛かりになりそうなものは未だに見つかってない。
というか、一箇所怪しい所があるんだけど本能的になのかここだけは見てはいけないって警告が体全体に響き渡り、毎度そこだけは探索を断念せざるを得なかった。
あたしは成仏しないで一生ここで地縛霊してなきゃいけないのかな。
いい加減味噌汁の味が恋しくなってきた。
人と話したい。
何か新しい事は起きないかな……。
▼
「へ〜、ここが曰く付き案件か。外はともかく中は割と綺麗なんだな」
どうやら新しい入居者が入ってくるかもしれないみたいだ。
下見に来てる彼は不動産屋と話してる。
ここで彼が住んでくれれば約一年振りの入居者だ。
何とか彼で決着を付けたい。
あたしが成仏する前にアパート取り壊しとかになったら目も当てられないからね!
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