040  幼馴染と言うのはそれ以上、それ以下でもないⅤ

「何? ま、まさか新手のハンターが現れたとでもいうのか……。面白い」

 ゲーム部の部長、九州明桜大学二年生浅田勇気あさだゆうきは話によるとちょっと変わった先輩らしい。いわゆる中二病だ。

 中二病とはネジが一つ外れていると俺は解釈している。

「話が早いわ。では、早速勝負しましょうか」

 え、今のどこに会話があった? 分かる奴がいたら教えてくれ。

「ああ、ちょっと待て。勝負と言ってもルールはこちらで決めても構わないか?」

「ええ、いいわよ。私はゲーム全般、あらゆる分野、武器、環境、リモコン操作に置いて一通りすぐに対応できるからどこからでもかかってきなさい」

「いいだろう。では、対戦形式はこの府天道ウオッチの最新版ゲーム『マスオレース9デラックス』で勝負だ」

 な、卑怯な……。

 ゲーム部の部長はまだ、春が操作したこともない勝率しょうりつを上げようとしている。案外、策士かもしれない。

 『マスオレース9デラックス』は、その名の通り、昔からたくさんの人に愛され続けるカートレースの事であり、俺もゲーセンとか行った時は必ず一回はプレイをしている。

「いいわ。それじゃあ、勝負は三日後ね。場所はここでいいかしら」

「もちろん。貴様の体に風穴かざあなを開けてやる。俺のハードボイルドがそう言っている」

「あ、それいいんで……。失礼しました」

 春につられて俺と善政よしまさはゲーム部を後にした。

「で、どうするんだ?俺はこれ以上面倒ごとには巻き込まれたくもないんだが……」

「俺も同意見だ。もうすぐ対局も近い。支障ししょうが出たらどう落とし前をしてくれるんだ?」

「言ったでしょ。勝負は三日後、それまでに何とかするわよ」

 春は俺たちの意見を全く聞いておらず。先が思いやられる。

 研究室に戻るとぼんやりと座っている冬月にパソコンに向かって仕事をしている藤原先生がいた。春は先生へと歩み寄り、パソコンの画面をのぞき込んだ。

「どうした? 桜井」

「先生は最新版のゲーム機とか持っていませんか?」

「まあ、持ってはいるがやらんぞ」

 すると、電光石火でんこうせっかの手裁きで先生のパソコンを奪い取った。

「うわっ!」

 ゴソッ。

 先生のびっくりする声と同時に俺は額に手を当てて溜息をついた。

 奪い返そうとする先生から猫のようにするりと逃げ回る春はパソコンを胸に抱えてながら冬月の後ろの方に回った。

「信司、先生を押さえて」

 渋々と先生の背後に回って両腕をがっしりと掴んだ。ああ、何をやっているのだろう。と、そう思いながら春の行動に呆れていた。

「桜井、それを返してもらおうか?」

 首を振りながら春は話し始めた。

「先生がその最新版ゲーム機を三日間貸していただけるのであれば、このパソコンを返しましょう。ああ、それと『マスオレース9デラックス』を忘れずにね……」

「三日間だと!」

 いきなり言われて混乱する先生。お気の毒に……。

「三日間でどれだけゲーム時間があると思っているんだ?七二時間だぞ」

「先生、少しは仕事をしないと社会人なんですから……」

 と、口を挟むように冬月は言い、先生はへたり込む。

 そして、春もそれに続けて追加攻撃をしてくる。

「そう言うことなので明日、先生がしっかりと私の目の前にそれを持ってくると約束するのであればこれはお返しします。じゃないと今後は研究にも協力できなくなりますねぇ」

 白々しい言い方で生徒が教師を脅しているのを目の前で初めて見た。一生、拝むことは出来ないんだろうな。

「……分かった。明日、持ってくるから返してくれ」

 腕を放すと、膝をついて倒れこむように先生は落ち込んでいた。

「先生、だから言ったでしょ……」

「…………」

 俺は先生の肩を叩くと無言のままゆっくりと頷いた。


 翌日、俺は朝からハードスケジュールで会った。補習ほしゅうなどがこの日に限って入っており、一限目から四限目までずっしりと授業が入っていた。いい加減にしてくれよと心の底から怒りを抑えながらキーボードを打ちながらプログラミングをしていた。

 七時間にも及ぶハードスケジュールを終えるとふらつきながら四階にある研究室に足を運んだ。

「これが四万円もする入手困難なゲーム機……。操作はどうやってすればいいんですか?」

 この時間になっても元気のいい声が聞こえてくる。

「その箱の中に説明書が入っているから自分で読んでいてくれ」

 先生が指さした箱の中を開け、ゲーム機を取り出した後、袋を取り出してその中にある説明書を開いて読み始めた。

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