第3章  時には夢を見たいと思うことがある

017  時には夢を見たいと思うことがあるⅠ

 例えば、こんな話がある。将来の夢は何ですか? 将来の夢なんて、夢のまた夢の話である。小さい頃はサッカー選手や野球選手、お花屋さんや看護師かんごしさんなどと突ぬかすが結局の所、現実は甘くはない。

 ま、そんな感じで人は大人になっていくにつれてドンドン、夢は変わっていくがそれを追っている事は確かである。俺は夢も希望もないし、信じてもいない。現実を知っているからな。たぶん、冬月ふゆつきも同じかもしれないし、藤原先生は……。将来的には難しい感じですね……。

「あれから、一週間。毎日のようにこの研究室にいて、一度も何もしていないような気がするんですけど」

 俺は何事もなく、毎日のように授業が終われば、ここに来ては、大学の授業で習った復讐ふくしゅうや本を読んだりして過ごし、時間になると家に帰るという生活を送っている。先生はパソコンに向かって、キーボードをカタカタと打ち込んでいる。何なの一体? 結局の所、本当に何しているんだ?俺……。

「ん? まあ、待て、天道。あと少しでイベントは空から降ってくる」

「は? 何言っているんですか。イベント? 空から? 馬鹿馬鹿しい」

「全く、本当に何のないなら私もここにいる価値はないと思うわ」

「静かに。今、空から降ってくる」

 藤原先生は、真剣な目をして画面を凝視ぎょうしする。俺は近づいて、先生のパソコンの画面を見ると……。なんか、何処かで見たことがあるような女子とイチャイチャするストーリー体験ゲームをやっていた。

「……」

「なんだ、俺がこんなことをして何か悪いか?いいだろ別に悪いことしていないんだからさ」

「それ、ギャルゲーですよね。まさか、イベントと言うのはそれですか?」

「……」

 先生は体を小さくして、俺から視線をさらす。

 いや、それはいいですよ。先生の一種の趣味なんだし。でもね、勤務中に学校まで持って来てやることはないでしょ。一応、⑱禁ではないことはパッケージを見ればわかるしいいんですけど……。まあ、先生の意外な一面が見ることが出来てよかったです。

天道てんどう君。人には知られたくない秘密は一つや二つあるものよ。これ以上、追及するのをやめておきなさい。これはこれで色々と使えるわ」

 笑顔で微笑んでいる冬月は、それは、それは漆黒しっこくの闇にいる魔女のようであった。怖、怖いよ。何、その笑顔。やっぱりこの女は悪魔あくまだ。いや、魔女まじょだ。

「そう言うなら、ま、いいけど……」

「先生、お判りいただけましたか?これでいいですよね」

「あ、ああ。もちろん」

 藤原先生の目は泳いでおり、心底後悔している様子であった。

「それはそれとして、何かやることはないんですか?」

「ああ、そうだ。今度な。俺の所に迷える子羊が相談しに来ることになっているんだ。たぶん、それがお前らの初の手伝いになるはずだ」

 そう言うと、先生はパソコンの電源を切った。


 次の日、授業が長引き、昼食の時間が少し遅れた頃。カフェテリアのカウンターには人の行列が長く続いており、どうにも時間的に不利な気がした。近くのコンビニには……まあ、パンぐらい買えば時間的には間に合うだろう。店内の中に入ると冬月がパンの棚でどれにするか迷っていた。

「お宅は何になさいますか?」

「ひゃ! な、何。何の用なの天道君」

 小さな悲鳴と同時に振り返った冬月は、こちらを見てきた。足を震えさせながら聞いてくる。

「いや、俺もパンを買おうとして来ただけなんだが……。」

「そう。いきなり話しかけられたから驚いたじゃない」

「すみませんね。……これにするか」

 俺は一番上の棚に置いてあるツナサンドを手に取ると、先ほど選んだオレンジジュースと共に列の最後尾に並んだ。

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