INVELL ~人類生存戦争~
筋属バット3号
0-0 純粋種
もう日付は覚えていないけど、むかし私は小学校高学年の時に社会見学の授業で大きな牧場に行った。
風光明媚な山々の麓にある近代的で、でもどこか素朴な感じがした、とても沢山の乳牛と肉牛がいる牧場。
そこで偶然なのだろうけど、種牛による種付けを見た。
固定された雌牛に、いきり立って覆い被さる種牛。
クラスのみんなが好奇心で騒ぐ中、私は血の気が引いていったことをはっきりと覚えている。
なぜなら、その時、私は雌牛と変わらない立場だと思い知らされてしまったから。
多種多様な遺伝子改造された人間が標準として生きる世界で、無改造の遺伝子だけを持つ純粋種として生まれた私。
私の義務は、子供を生むこと。
今なお続く異星生命体との戦いで、人類が再び種として存亡の危機に陥ったならば、子供を産む生体部品として子宮を使用させること。
種牛に犯される雌牛と、私は何ら変わりがない。
その事実が無性に悲しくて、独りで泣きながら帰宅した。
それから四年後の十四歳の秋――。
中学生だった私は、初めてお見合いをした。
相手は政府が遺伝学的見地から選んだ、離婚歴が三回もある四十代の男性。
お見合い自体を断りたかったが、純粋種という立場がそれを許してくれなかった。
綺麗な着物で着飾った私に、馴れ馴れしく自分を語る口調も、私を褒めそやす言葉も、何もかも吐き気がした。
何よりも離婚歴が三回もある時点で、私の価値観とは絶対に相容れない男性だと分かりきっていた。
お見合い相手は、小学校の時に見た種牛と何ら変わらない。
私は、あの時見た雌牛と変わらない。
政府が用意した男に犯されるだけの私。
それが私の運命。
母と同伴で夕食まで我慢して付き合ったが、全てが終わって自室に戻ると限界だった。
私はその夜、赤子のように声を上げて泣いた。
心配した祖母とメイドが私が泣き疲れて寝るまで、ずっと抱き締めていてくれた。
次の日から、何もかも嫌になった私は学校にも行かず自室に閉じ籠もった。
両親が叱っても、運命を受け入れた姉が諭しても、私は部屋から出なかった。
そんな日々が一週間ほど過ぎた頃――。
いつものように食事を運んできてくれた金髪のメイドが、私にだけ聞こえる声でこっそりと囁いた。
「鈴音様、運命を自ら切り開いていく覚悟はお有りですか?」
「――え?」
「お有りであるならば明日は学校に行って、その気概の一片でも私に示して下さい。何よりも明日は、鈴音様が成人するためには必須科目の生存戦争概要です。それを聞き、帰宅したならば、鈴音様の可能性と選択肢。その全てを私が示しましょう。」
「オルトリンデ……」
「これは、私と鈴音様との秘密ですよ」
悪戯っ子ぽく微笑む金髪碧眼のメイドに、私は二の句が継げなかった。
次の日の朝、私は意を決して学校に行った。
そして帰宅すると、その日の内に私は自分の人生を選択した。
それは秋の紅葉が散り始めた、晩秋の夜の出来事だった。
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