エピローグ 恋愛同盟
俺は、こうして、屋上の扉を開き中に入るとそこには俺と、月夜野以外の全部部員が集まっていた。うん、これ、盗み聞きされていたやつだね。
「あの、みんなでなにしてるのさ?」
俺が、そう聞くと、渋川井先輩は、大きくため息をつき、ソフィアと水神先輩は、大慌てしていたのである。
「あの……えと……違うわよ!別に面白そうだから覗こうとかなんておもってないんですからね!勘違いしないでよね!」
「僕は、同人のネタになればなんでもいいのだけれどね!」
「はあ……これだから、私は、やめようといったんだ……どうせこうなるんだから……自業自得だよ。あと、少年?君は察しが悪いんじゃないか?男性としてあれは、どうかと思うよ?」
三者三葉な反応だったが、この部員たちは、もう月夜野の正体を知っているわけであるので、今後の方針も語らないといけないし、このままここにいると、全ての元凶である水神先輩の思うつぼであるので、癪に障る。
「うん、分かっているよ。そもそも一番悪いのは、水神先輩だって。けど、それ以上に……覗いていたな?あと、渋川井先輩、潔いのは良いですが、アンタも同罪なのになぜ俺が責められるのですか!?」
「まあ、覗いていたのは、謝るから許してくれ。すまない。しかし、少年……はあ……」
いや!なんでため息をつくのですか渋川井先輩!と言いたいが、今回の一件で自分の察しの悪さは、知ったので何も言えない……しかし、他の二人に関しては、非常に醜いものであった。
「覗いてないですよ……おほほ。私は、ゲーム一筋ぃ!」
「僕は、二次元一筋!」
あーだめだ、このオタクコンビ。しらばっくれるつもりだ。うん、そっちがそのつもりなら、俺にだって考えがある。
「渋川井先輩?ちょっと手伝ってくれますか?」
「まあ、私もこんな卑怯な真似は、大変に不本意だったからな……共犯者風情がなにを言っていると言われるかもしれないが」
「大丈夫です。少なくとも渋川井先輩は、誤魔化そうとしてないですし、セーフです」
「ん、ありがとう。とりあえず、この馬鹿どもは、部室に連行した後どうする?」
渋川井先輩は、理解が早くて、助かる。これからのことがなんとなく分かって漏れっている。それに比べ、馬鹿二人は……
「私も……果歩先輩と同じだし、無罪よね?少なくとも情状酌量の余地が……」
「ソフィアタン!ずるい!僕も無罪だ!」
あぁ、なんで俺この部活に入ったんだろう?まあ楽しいからだろうが……こうやって、ふざけ合える仲間がいるってとってもいいことだ。だから、敬意を払った笑顔で、判決を下す。
「それは、今後ふざけた真似ができないように調教します」
「うむ、賛成だ。ちなみに私は、賄賂をもらっているからな。のびちゃんの事は他の奴らには、話さない。約束しよう」
そうして、俺と渋川井先輩による調教は、部室で行われ、終わる頃には、最終下校時間間際であった。帰り際の馬鹿二人の表情は、語るまでもなかった。
私は、また考えなしに、伊勢崎先輩と沼田先輩の間に入ってしまった。前までならこんなことは、しなかったのだが、今回は、別だ。私は、自分の気持ちに嘘は、つけないから。
「……さて、日和ちゃん。なんで来たか……なんて大体想像は、つくけれど聞こうかしら?」
伊勢崎先輩は、なんというか、ゲームのラスボスにも似た雰囲気で私に問いかけて来た。
こうやって、本人を目の前にして喧嘩を売るなんて、私は、人生で一回もなかったが、それは、昨日まで、今日、私は、先輩に対して失礼で無礼な宣言をするためにここに来たのだから。
「伊勢崎先輩……今日は、貴方に言う事があってきました。本当は、こうやって邪魔をするみたいに出るつもりは、無かったのでそれに関しては、謝ります。しかしそれだけです」
「知っているわよ。まあ、あのまま日和ちゃんが来なかったら私は、英二に告白していたけれどね……こんな、メッセージ来たら日和ちゃんの乱入だって私は想定していたし」
そう私は、今日、伊勢崎先輩を放課後の屋上に来てくれと言っていたが、沼田先輩に屋上へ呼ばれているから会えないと言われた。
だから予感はしていましたが……まさか、屋上に行く途中で部員の皆さんに鉢合わせるなんて私も思っていなかった。きっと今頃は、沼田先輩が、みんなを部室に連れて行っているころだと信じて、人生で初めての喧嘩を売ろうと思う。
「伊勢崎先輩、それだけですか?それならもう、本題に戻ろうと思うのですが」
「別に良いよ。もう言われることは、想像ついているし」
なんでしょうこの余裕。物凄くは腹立つ……。沼田先輩には、小さいからだで、自信と余裕のない守りたくなる系と聞きましたが、真逆です。今の伊勢崎先輩には、余裕と自信が表情から分かるくらいに自信が満ち溢れている。けど、関係ない。私は、言わないといけないから。
「伊勢崎先輩、宣戦布告です」
「物騒だね。ゴリゴリの文系に殴り合いとかは期待しないでね」
「それは、私も同じです。ですから、言葉では、伝えます」
「あはは、良いけれど。そうそう、じゃあ私から、勝手に言うね。私は、英二を世界で一番愛している。日和ちゃんよりも。自信あるけど?」
「うぐ……ずるい」
大人げない。この人私が言いたいことを先に行ってしまうなんて!けど私も負けられない。だって、これは、私の決意なんだから!
「では、言います」
「どうぞ?」
「私のが、沼田先輩を愛しています!あの人の笑顔は、私が欲しい!あの人のやさしさは、私のものです!絶対に伊勢崎先輩になんて譲りません!それに、私が世界で一番沼田先輩を愛しているんです!伊勢崎先輩は、私の次くらいにしか沼田先輩を愛していないです!」
言ってしまった。物凄く失礼なことをけど、負けられない。私の本当の気持ち。だれにも負けない自信がある。
「あははは!喧嘩を売ったのになんで日和ちゃんは、そんなにつらそうな顔をしているのさ!それじゃ私には、勝てないよ」
伊勢崎先輩は、意外にも笑っていた。てっきり喧嘩をすると思っていた私は、少し拍子抜けしてしまった。
「勝てます!」
「あら!本当?じゃあ、私達ライバルかしら?まあ、私が、アイドルのライバルを語るなんておこがましかった?」
「そんなことは、無いです!私は、伊勢崎先輩が大好きです!だから勝ちます!」
私は、別に伊勢崎先輩が嫌いと言うわけではない。むしろ、人生で一番の親友なのかもしれない。正体を知っている数少ない同世代ですし。だからこそ、正々堂々、あいまいな気持ちは語らない。
「そうだね!そうしたら、私と日和ちゃんは、恋敵だ!」
「恋敵……ですか……」
慣れない言葉であったが、意味も知っている。恋敵……妙にしっくりとする言葉だった。
「うん!正々堂々、どっちが勝っても恨みっこなし!お互い遠慮したらダメだから!」
「私でいいんですか?生意気な後輩とか思いません?」
「思う!実に思います!けど許す!恋敵なので!あ……でも、嫌がらせとかはだめだよ?」
「しないですよ!」
良かった。私が飛び出してしまって、告白を邪魔してしまったから怒られるとばかり思っていた。けれど、伊勢崎先輩は、怒るどころかむしろ、笑顔で私を受け入れてくれた。
「ふふふ……良かった。じゃあ、私達は、恋敵同盟だね!」
「はい!伊勢崎先輩!よろしくお願いします!」
私は、気持ちよく返事をしたのだが、伊勢崎先輩は、なぜか不服そうだった。
「……ど、どうしました?伊勢崎先輩?私、何かしました……?」
「それ……伊勢崎先輩って、固すぎないかな?遠慮はだめって言ったのに、伊勢崎先輩って思いっきり遠慮されている気がする。というか距離を感じるから禁止!」
驚いたが半分、嬉しいが半分。私は、戸惑いながらも、伊勢崎先輩のご厚意に甘えることにした。しかしどうしましょう?みどり先輩だと固いと言われそうです……。
「……ミー先輩。ミー先輩って呼ばせてください!」
はじめてでした。アイドルとしてデビューする前の私は、お母さんさんの居ない自分に友人はできないとか思って、あまり自分から友達を作らないでいました。中学に上がってからは、アイドルの仕事が出てきて、人をあだ名で呼んだことなんてなかったから、とても不安でしたが、伊勢……ミー先輩は、笑顔で手を差し出した。
「うん、これで、恋敵同盟発足だね!よろしく日和ちゃん」
「はい!よろしくお願いします!ミー先輩!」
私は、ミー先輩に差し出された手を握り、恋敵同盟を結んだのでした。これで、ようやく、肩の荷も下りた。
「ミー先輩。そう言えば、明日から、沼田先輩を起こしに行って良いですか?」
「……とりあえず、それは、ズルい。うん、ちゃんと協定内容も決めようね」
この後、恋愛同盟としての協定として、惚れさせるのは自由。抜け駆け禁止。告白するなら二人で、基本は、沼田先輩からの告白を待つ。など、ミー先輩、それ、お互い不利なんじゃないでしょうか……いや、勝つのは私です!関係ないです!
怒涛の一週間が過ぎ一か月。梅雨の兆しか、蒸し暑い晴の日。月夜野が、見事に下町ソレイユの恋物語の主演を務めると決まってから数日が過ぎた通学路。俺は、震えていた。
「いや……二人とも引っ付きすぎ……暑い」
いい加減、ジメジメした蒸し暑い梅雨が始まるのだが、そんなのはお構いなしに、月夜野とみどりは、俺の両腕をがっちりとホールドしていた。周りから見ればうらやましいとでも思われるかもしれないが、当事者の俺は、暑さで死にそうになっていた。
「日和ちゃんが離すなら私も離す」
「ミー先輩が離すなら私も離します」
そしてこの二人も、あれから、仲良くなったのか、月夜野は、みどりのことをあだ名で呼ぶようになった。仲が、いいのは結構だったのだがこうも、結託されると逆に面倒くさい。
「いや、それ離さないよね!絶対に!俺は、凄く暑いのだけれど!物凄く周りの視線が痛いのですが!離してくれませんか!」
「いやだ、ね!日和ちゃん!」
「はい!ミー先輩!」
俺、悪いことしたかな……正直に言えばこの光景、明らかに異常だった。周りの視線が痛い。こんな時に知っている人に出会ったら……
「あはは、お……おはよう、沼田君。伊勢崎さんも、月夜野さんもおはよう」
「お……おい!湯原!助けて!」
「お疲れ!じゃ!」
最悪だ湯原に見られた。というか、そそくさと先に言っちゃったのですが!いや、湯原に恋愛相談された時、俺物凄く興味なくて聞き流していたからあまり人のことは言えないが。
「あ、ハーレム糞野郎おはよう。みどりと、のび太ちゃんもおはよう!」
「おはよう!みどみど、のびちゃん……あとハーレム少年!」
「沼田氏!僕にもわけ……あぁ!引っ張らないで!」
そして、全部の部員……ソフィアは、俺を冷たい目で見て、水神先輩は、渋川井先輩に引っ張られて、先に学校に向かってしまう。
「まって!みんな待って!」
「少年!ファイトだ!あと、ちゃんとゴムはつけろ!」
うん、変な気を使われているわけじゃないが余計なお世話です渋川井先輩。
終わった、何の助けもない絶望の中、俺は、とんでもない妙案を思いついたのであった。
「あ!あれはなんだ!」
「どれ?何?」
「なんですか!UFOですか!?」
俺は虚空を見てそう叫ぶと、月夜野とみどりは、腕のホールドを緩め、虚空を見る。チャンスだった。俺は、両腕のホールドから抜け走り去った。
「ふははは!さらばだ、諸君!」
俺は、捨て台詞を吐くと走って学校へ逃げ出していったのであった。うん!醜いとか言わないでください。走ることで、余計に暑くなるが、痛い視線を浴びるよりは、よっぽどマシだったので暑さは、諦めた。
「行っちゃいましたね、沼田先輩」
「うーん。少しからかい過ぎた?やっぱりこの作戦って失敗だよ」
「ミー先輩!こんなのは試練です!青春です!走りましょう!」
「私、運動苦手……って!もう走り出しているよ!待って日和ちゃーん!」
こうして、何の変哲もない日常……ではないかも知れない。しかし、俺は、ここ最近の学校生活は、格段に楽しめていた。それだけは、確信している。
部活に入って良かった。全部に入って、俺は、大切な感情を手に入れ、成長もできた。
それだけで今の俺には、十分だったのかもしれない。
きっと俺たちは、これからも人生で、何度でも苦難に会うのかもしれない。けれど、仲間がいれば、きっと乗り越えてゆけるのだろうと。
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