19話 愚行

「で、こんな大掛かりなことまで、俺達を仲直りさせたかったと……その過程で、過去に問題があったと疑って、こういうことをしたと言うわけか……。最初から言ってくれれば、俺だって……はあ……なんで、そこまで世話を焼くかね?」

 俺は、あの後、どうしてこういうことをしたか問い詰めたところ、月夜野曰く、自分のせいらしく、その話に乗ったソフィアが探りを入れたらしい。

「ですが!沼田先輩が喧嘩した理由には、やはり私があんなことをしたから……喧嘩して……罪滅ぼし、したかった……です」

「馬鹿か、月夜野は、悪くない。俺の不徳が起こしたことだからな。そんなに思いつめなくてもいいんだぞ」

俺は、少し涙目になっていた月夜野を慰めようとしたが、それを見たソフィアは、俺をジト目で睨みつけてきた。

「思いつめるなって、一番思い詰めているのは、エイジじゃない。辛気臭そうな顔して、気にしてオーラまで、漂わせてさ……バカなんじゃないの?」

「馬鹿って……これは、俺の問題で!」

「何が俺の問題よ?やっぱり悲劇のヒロインぶってるじゃない」

「俺は、そんなつもりは……!」

俺は、言い返そうとするがソフィアは、俺のセリフを遮る様に続けた。

「つもりがなくても私には、そう見える。仲間なんだから頼りなさいよ。私は、アンタの為なら、なんだってする。エイジが私にしてくれたように、私は、アンタを助ける。別にあんたのことは、好きじゃないけれど、恩をあだで返すほど、私は、礼儀知らずでもない」

「俺は、お前を救ったことなんて……」

 俺は、ソフィアに恨まれる事はしたが、恩を感じさせるようなことなんて一切していなかった。爺さんの前でやったチェスだって、わざと負けようなんて、微塵も思わなかったし。

「あるわね。アンタがいたから、私は、今もこうやってゲームが最高に楽しい。倒せない敵に会って、私は、少しつまらないとまで思っていたゲームが楽しかった。理由なんてそれだけで十分じゃない?」

当たり前のように言い伏せるソフィア。力強い言葉に俺は、言葉を失った。そして、月夜野もものすごい勢いで続ける。

「そうです!沼田先輩は、意地悪ばかりしますが、たまに優しくて!面倒くさがるくせに、人のために頑張ろうって意気込んで……手を差し伸べてくれる勇気のある人です!そんな沼田先輩を私は、本当に凄いなって!そんけい……うぐ!」

なにに、興奮しているのか月夜野は立ち上がろうとし、机に膝を当ててしまい、思いっきり痛がっていた……うん、やっぱり俺の後輩は、ポンコツだった。

しかし、二人の言葉は、俺のモヤモヤを晴らしてくれそうな気がした。だからだろうか、一人でモヤモヤしているのも馬鹿らしくなり、このモヤモヤがなくなるのなら、俺の過去を話してもいい気がした。別に大した過去でもないが話してみようという気分になった。

「別に、話しても構わんが、そんな壮大な過去があったわけでもないし期待はするなよ」

「ほんと!やったわ!のび太ちゃん!」

「私たちの勝利です!ソフィア先輩!」

「「いえーい!」」

いやいや、これに勝敗とかあったのか?俺が、話すといった瞬間、ソフィアと月夜野は、ハイタッチで喜び合った。うん、ある意味じゃ、負けたみたいなものなのだろうか、新しいモヤモヤは、放置し、どうでもいい過去を俺は、思い出し話し始めた。

「……そうだな、そしたら、俺とみどりの出会いなんだが、俺の生まれた日、隣の保育器に入っていたのがみどりだったんだ」

「まさかアンタら、そんな幼いころからの幼馴染!なにそれ、なんてエロゲ!?」

 俺が話を始めた直後、大げさなほどに驚くソフィア、いや、エロゲではなく現実なのだが……前々から思っていたが、ソフィアって、ただのゲーム好きだけでなく、オタクっぽい所まであるのではないだろうか?

「……まあ、それから、俺たちは、今まで家族ぐるみの付き合いをしていたんだがな……中学の頃に問題が起きた」

「沼田先輩が何か粗相でもしたのですか?」

月夜野は、さも当たり前の様に俺が、悪いと言い出した。悪意がないのが余計に怒れない。ちょっと俺をどう思っているか、聞かないといけない。

「いや、月夜野、いつも思うが俺のことどう思っているんだ」

「優しくて、意地悪で、卑屈で卑猥で欲望に素直で、容赦がなくてせこい所があって自己中心な所があって、マイペースな尊敬のできる先輩です!」

屈託の笑顔で答える月夜野だが、コイツは、分かっているのだろうか?それ、全然褒めていないことに……いや、分かっていないな。俺に尊敬なんて絶対にコイツしていない。

「うん、生意気な後輩は、置いておこう」

「あう!私が、生意気!?」

悲しそうな、月夜野は、放置し、嫌な思い出……大したことはないが、個人的には、人生の転機になった話を続けよう。

「中学の頃、他の奴らより、体型が小さいみどりは、男子……というか、ロリコン予備軍に大人気だったんだが、まあ、それを気にくわないと思った女性グループがみどりをイジメ始めた」

「うわ……私、女だけれど、女のそういう所、本当に嫌い。女々しくて、本人に直接文句を言えばいいのに……」

うん、みんなが、みんなソフィアみたいに分かりやすい性格だったら平和かも知れない気がする。喧嘩が多くて、世紀末みたいにはなるだろうが。

「……まあ、俺は、幼馴染だからみどりを庇った。当時の俺は、めちゃくちゃ恥ずかしいけれど、誰かのために頑張ろうとか思っていて」

「……それって今も同じなんじゃ」

いや、そんなことはないぞ、月夜野……まあ、話が進まないので言わないが。

「なんとなく分かったわ、それであんたは、結局助けきれなく無力感から今みたいな糞な正確になったわけね!」

今度は、ソフィアが失礼なことを……うん、俺、今度から人様に誇れるような人間になろうという決心をしたがソフィアの読みは、珍しく間違えていたのだ。

「逆だ。社会的に抹殺して、女性グループは、みんな地方に転校させたぞ?今の世の中は情報戦だからな。援助交際ツイートを見つけてやったり、喫煙の証拠を掴んだり、友達の友人を寝取ったりとか、バラされたくないなら、転校しろって詰め寄って、いじめていた奴らの転校先の教師に情報をリークしてやった。今は、ニートだったりして、少しやりすぎたが……」

「うわ……人のすることじゃないです」

「私……こんな奴にゲームで勝てたことがないなんて……」

あれ?なんで俺がドン引きされているんだ?俺は、みどりをイジメた奴に報復しただけだぞ……なんでドン引きされているんだ……。

「おほん!ま……まあ、みどりにも、やったことがバレて、怒られた。で、結局、そこから、俺とみどりの冷戦がはじまって、みどりは、高校入学と同時に一人暮らしを始めだして……結局、俺は、独善的な考えで助けたつもりで、みどりを追い詰めて……」

うん、けど二人の反応を見て気が付いた。結局、今回もそうだった。みどりなら許してくれる、みどりは、俺に返せない位の恩があるから許してくれるなんて言う最低な考えが生んだんだと。

なんだか、モヤモヤが晴れた気がした。結局俺は何も変わっていない。

独善的な正義を押し付け、自分の不徳をみどりに許させようとして……

「なんだ……俺、最低じゃん」

心の底から出た言葉。それは、怒る。恩を押し売りされたみどり。みどりなら許してくれると思っていた俺の慢心が生み出した罪。俺が悪い。

そう考えると折れそうになり、くじけそうになった。後悔の渦。さっきまでの思考の渦ではなく、自分の愚行による後悔。

「沼田先輩は、最低じゃないです!間違えただけじゃないですか!そんな悲しそうな顔をしないでくださいよ!」

そんな後悔の渦から俺を引き上げたのは、涙目の月夜野だった。……俺とソフィアが混乱していた。なぜ、お前が泣くんだと同じことを思っていただろう。

「い……いや、なぜ月夜野が泣く?」

「だってぇ……頑張ったのに報われないなんて……グスン……やりきれなくて!」

「感性豊かか!いや!これは、俺の独善と不徳が起こしたことであって……」

「でもを……でもを……」

……なんというか、手を付けれなくなっている。ただただ、意味もなく泣く駄々っ子の様な月夜野、ソフィアは、諦めた様に俺の肩を叩く。

「お兄さん……諦めな……これは、もう私たちが手伝わないとのび太ちゃんは、泣き止まないですぜぇ」

「そ……そうだな……任せる。それとなんだそのキャラ?」

「知らないけれど、こういう分かった風なキャラよくいるじゃない?」

「ソダネー」

うん、成り行きと流れから、俺とみどりの仲直りに手伝ってくれることになったソフィアと月夜野であったが……この先が不安でたまらん。大丈夫か?

しかし、俺の目的は、決まった。

みどりに今までの愚行を謝る。悪いのは、なんにしろ俺の愚行なのだから!

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