15話 エンカウントみのほどしらず
あの後、傘が壊れ、雨でびしょびしょになった俺が、自宅の玄関に入ると両親でも、紫でもない見覚えのある靴が玄関に一足置かれていた。
「みどりがいるのか……珍しいな」
みどりの家に俺と紫が、お邪魔することは、よくあるが、みどりが、うちに来ることは、高校に上がってからは、滅多にないことであった。しかし、全くないことではないので、俺は、気にせず、濡れて凍えた体を温める為、脱衣所に直行した。
「さびぃ……早くシャワーを浴びて体をあっため……ん?」
『さて、英二が戻ってくる前に上がって、ご飯でも作ってあげようかな!驚くだろうな』
俺は、服を脱いだ所で脱衣所に違和感を覚えた。脱衣かごには、見慣れぬ女性用下着……いやまさかとは、思い、落ち着いて耳を澄ませると、湯船から人の上がる水音が聞こえる。
うん、声からして、みどりがお風呂から、出てくる音である。
「や……やばい!実にヤバい!」
俺は、慌てて、脱いだ服を拾い上げ、脱衣所から脱出しようとした瞬間。悲劇は、起きた。
「……あれ?え……英二?」
「……や、やあ」
目が合った。目の前には、全裸の幼女幼馴染、そして俺も全裸で、脱いだ服で隠すべき場所は隠していたが、目が合ってしまった。
「え……英二?なんで……」
「きゃあぁぁぁ!みどりさんのえっちぃぃぃぃ!見ないで頂戴!」
「いや!そのセリフ!明らかに私のセリフなのですが!なんで、英二が全裸でしかも私のパンツを持って脱衣所から出ようとしているの!」
……確かに俺は、全裸だ。しかし、手に持っているのは、みどりの下着ではなく俺のパンツ……かと思ったのだが慌てて、着替えを取ったから、勢い余って、みどり着用ピンクパンツが俺の右手にはしっかりと握られていた。
「あの……これは、誤解で……ほら、ラノベ主人公みたいに風呂の中までは、入っていませんし……むしろ、鉢合わせないように脱衣所から脱出しようと思っていたことを評価してほしい訳でありまして……ほら、怒らないで……ね?」
「弁解の前にとりあえず、一回、脱衣所から出るべきだと私は、思うのだけれど?私のパンツは、ちゃんと返してから……ね?英二?」
「すみませんでした!本当にすみませんでした!」
顔を赤くしながらも冷静な怒りで俺を諭すみどりに従い、俺は、みどりのパンツを脱衣所において、この場から、出て行ったのであった。
「うん、わかるよ。そりゃ、こんな雨だもん。すぐにシャワーは、浴びたいし、私だって勝手にシャワーを借りていたことが悪いのは知っているよ?けれど、英二にももう少し注意力があってもいいと思うな?靴も置いてあったし、脱衣所にかかっている掛札は、使用中にしていたのに……全てスルーするのは、流石に英二が悪いです」
「本当にすみませんでした。俺が、全面的に悪かったです。許してください……」
「おにいちゃんが、変なかっこうしてるー」
日本男児にとっての最高の謝罪、それは、土下座である。ソファーに座るみどりの膝の上に座る紫は、俺の土下座を理解せず笑い、みどりは、ムスッとして、俺を睨む。
「ごめん。私は、英二に謝ってほしい訳ではなくて……私が怒っているのは、英二の言い訳だよ……素直に謝ってくれれば、私だって怒らなかったけれど、変に言い訳して、脱衣所に居座った事。まずは、脱衣所を出てから謝るべきです。配慮が足りないです」
「おっしゃる通りです。わたくしめ、慌てすぎて、単純なことに気が付いておりませんでした」
「分かればいいんだけれど……いつまで頭を下げているの、英二?あんまり、頭下げられっぱなしだと、なんだか申し訳ないんだけど……怒っているけれど反省してくれるなら許すよ?」
覗いてしまった俺が言うのもあれだが、土下座で許してくれるなんて、みどりはちょろくありませんか?幼馴染として心配なのだが……
「ねえ?ねーちゃん?なんで、おにいちゃん心配そうな顔してるのー?怒られているのは、おにいちゃんなのに?」
「紫ちゃん?いい?お兄ちゃんはね、幼馴染の私のことを覗いたのに許してくれるなんてちょろいって思っているんだよ?いい?悪いことして反省したのに人の心配するなんて、これこそ、身の程知らずっていうんだよ」
「みのほどしらずー!わかんないけどおもしろーい!みのほどしらずー!」
嘘でした。本気で、怒っているよ!みどりさん!普段から暴力とかは、振るわないけれど、怒った時は、紫を通して伝えたりする。俺が、妹には、甘々なことを知ってやっているから、質が悪い。
「うぐぐ……お兄ちゃんを悪く言わないで……」
「おにいちゃん?泣かないで!みのほどしらずだから泣かないで!」
言葉の意味を知らない紫は、俺を慰めようと、覚えたての言葉で慰めてくれるが、逆効果です。
「うぐ……みどり様あぁ!許してくださいいぃぃ!」
「だから、私は、許しているよ?うん、いたって冷静だよ?全然、冷静。別に英二がもし私は、まだ怒っていると思うなら、来週の日曜日、私、暇だし一緒に映画を見てくれるなら許してあげてもいいけれど……あ、別に怒っていないけれどね」
……みどりは、遠回しに要求までしてきた。しかしこれは、みどりなりのわがままだ。昔から、お願いをするのが苦手だったみどりが使うやり方。結構面倒だと、みどりを知る湯原は、言っていたが、しょうがない、みどりにとっては、最大限に勇気を振り絞った行動なのだから……しかし、間がとてつもなく悪かった。
来週の日曜日は、先約……月夜野の演技の手伝いが入っていたのだ。
「すまん……その日は、部活の集まりがあって、日をずらさないか?!」
義理通しとしては、月夜野を優先するべきだったが、女の子との約束があるからと言って、断るのは、流石に俺でもできない。だって、幼馴染とはいえ、みどりだって女の子なのだ。きっと気分を悪くする。
「うぐ……自習部の時は、こんなこと無かったのに……まあしょうがないよね……うん、じゃあ、それは、また都合の付く日でもいいや」
「すまん!」
俺は、全力で謝罪をする。覗いておきながら、みどりの願いを聞けなかった俺なりの謝罪だが、今度は、みどりも俺に頭を下げる。
「い……いや!私も悪かったよ!ごめんね、英二!少し調子に乗りすぎちゃった!」
「いや、俺が悪い!みどりに気まずい思いまでさせてしまったんだから」
二人で、頭を下げている光景を見て、紫は、おかしそうに笑った。
「あははーおにいちゃんもねーちゃんも二人でゴメンネしておかしー!ふたりとも、みのほどしらずー?」
「「ぐ……」」
年上の俺たちは、純粋な幼女の言葉に心を傷つけ、頭を上げてしまう。みどりは、なんだが申し訳ない顔をしている……多分俺もだが。
「英二……ゴメン……紫ちゃんに変な言葉を教えちゃって……」
「いや、原因は、俺だし謝らなくていいんだぞ、みどり」
この日の紫の頭には、身の程知らずという言葉がトレンド入りしたのか、ことあるごとに身の程知らずと使う。恐るべし……小学生。
ちなみに、この日、みどりが来たのは、映画に誘うためと、俺の帰りが最近遅いから、紫のことが心配だったらしい。本当に、幼馴染に俺は、頭が上がらない。
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