五話 エロゲ乙!いえいえ、エロ?
「老神先生~いますか~入部届持ってきてやったぞ」
「あー、沼田先輩こんにちは!すみません、おじさんは、保健室でタバコ吸っていたのが教頭先生にバレたから今は、生徒指導室ですよ」
「……何やっているんだあの人」
こうして、俺は、翌日入部届を老神先生に出しに昼休みに保健室に向かったのだが、そこら中に医療器具が散らばった保健室にいたのは、制服の上から割烹着を着た瓶底メガネの月夜野だった。昭和のオカンの様な格好が妙に似合う。本当に月夜野が、現役の女子高生か疑ってしまう。
とにかく不良教師は、お説教中な訳であって、今いるのは、俺と月夜野だけだった。
「あはは……しかも、生徒指導室に連れてかれないように大暴れしたらしくて……その場に居合わせてしまった私が、後片付けをする羽目に……はぁ……私、アイドルなのに」
「いや、月夜野は、月夜野だろう?hiyoriかもしれないけれど、今は、メガネもかけているし、カツラも付けてないし」
「いや……そう言われるとそうなのですが……それと、沼田先輩は……早速、入部届をかいてきてくれたのですね!」
嬉しそうに俺に笑顔を向ける月夜野。いい加減慣れて来た。こいつの仕草の一つ一つは、偶像としてのアイドル……男の求める理想形であることということに。
月夜野は、無自覚にこういう仕草をしているのだとしたら、天性からのアイドルなのだと。
「そんなにうれしいか?まあ、俺に興味があるっていたしな。惚れたならあきらめてくれ、俺は、昨日も言ったが、軽い男じゃないからな」
「あ!安心してください!先輩は、男性としてではなく人として気になっているだけなので!そういう関係には、ならないですよ」
いや、笑顔で否定されると、なぜか、グサッとくるものがある。告白してないのに断られるなんて……
「まあ、いいわ。これ、老神先生に渡しておいてくれ、俺は、帰るから」
「むぅ……」
俺は、入部届を月夜野に渡すのだが受け取らず、俺を睨んでいた。
「いや、受け取ってくれよ。なぜ受け取らん?」
「沼田先輩。絶対にもてないですよね?こうやって超絶美少女なアイドルが一人で肉体労働に励んでいるのですよ……こういう時は、やることがあるのではないのでしょうか?」
「はん!手伝うって奴だろう!残念だが、この後女の子とのお昼ごはんだから、手伝えないからな……それに自分で自分を美少女とか言うような奴を俺は手伝わん!」
「あぁ……かわいい後輩は、ご飯を食べずにお掃除をしているのに……この先輩は、一人で便所飯するくせに、適当な理由をつけて、見捨てるのですね……およよ」
ワザとらしく泣いたふりをする月夜野。……俺は、この後、本当に女の子……と言ってもみどりとのご飯なのだが……俺って月夜野に割と酷いイメージを持たれている?
「……俺は、手伝わないからな」
だから、俺は、意志を強く持って断ろうとするのだが……
「ダメですか?先輩?」
輪郭を隠していた眼鏡をはずした月夜野は、これまたあざとく俺の手を握り上目遣いで聞いてくる……いや……誘惑なんて……誘惑なんて……
「はぁ……分かった。後輩の思惑に乗ってやるよ。お昼に関しては、後で謝れば済むだろうし」
「やった!流石先輩です!」
乗ってしまった。誘惑と知っていて手伝ってしまうなんて……なんとも俺らしくないが、これも俺の無くしたなにかの鱗片なのかもしれないと信じて。
みどり、今日は、晩御飯一緒に食べような。
「で、都合のいい先輩に後輩は、なにを願うのだ?」
「そうやって意地悪なこという……まあ、沼田先輩だから仕方ないですが……そうですね、か弱い私の代わりに重いものを元の棚に戻してもらっていいですか?」
か弱いって……初めて会った時に握られた握力は、決してか弱い女の子がしていいようなものではなかったぞ。
まあ、無粋な嫌味を言っても変わらないので、俺は、落ちていた大きな箱を持ち上げた。
「よっ、と……重いな、なにが入っているんだ」
大きな箱は、いくつもあり、俺は、不思議に思い、好奇心で開けるとそこにあったのは……
「……なんで、保健室に大量のエロ本と週刊誌があるんだ」
「沼田先輩?どうしたのですか?怖い顔して」
俺の開いた段ボールを覗こうとしてくる月夜野。俺は、教育上にもこれは、健全な女子高生が見るものでないので咄嗟に封を閉じた。
「な……なんでもないぞ……」
「いや……なんですか?ふふふ……アイドルとしての勘がその段ボールを開けろと言っているのです。どいてください!沼田先輩!私も中身を見たいです!」
「だ……ダメだ!本当にダメだ!」
俺は、段ボールの中身を必死に隠す。他人のエロ本だから、見られても俺には、何の問題は、無いが、エロ本を女の子に見られる男の虚しさは知っている。
俺も、昔、みどりに秘蔵のお宝エロ画像フォルダを見られたことがあったが、死にたくなったし、なぜか巨乳ものばっかりのことをみどりに怒られた。
本当に恥ずかしいし、結局、母さんにも内容が伝わり食事が喉を通らない時もあった。
だから、俺は、隠す、同じ男のプライドの為にも!
「むむむ!沼田先輩いいじゃないですか?結局それは、おじさんの物なのですから見られたって沼田先輩は、恥ずかしくないです。むしろ一緒におじさんの秘密を暴いちゃいませんか?」
「ら……らめ……らめなの……」
「やれやれ、先輩。そんなに隠さなくても……私だってエロ本の一つや二つ見たって驚きませんよ……もう高校生なのですよ」
俺に近づいてくる月夜野。いや、一冊とか二冊じゃなくて段ボール丸々一箱なのだが!あの不良教師がそもそも、持ち込まなきゃよかったが流石に、この量を見られたらいたたまれない。
俺は、段ボールを背に追い詰められたのだが……
「きゃあ!」
「うお!」
瞬間、月夜野は、足元に落ちていた瓶の様なものに足を取られ俺の方に倒れこんできた。
ガシャンという大きな物音と共に月夜野が倒れこんできた。
「いたた……大丈夫か?月夜野……って!」
「はい!?」
至近距離十センチの所に月夜野の顔がある。メガネを外しているから、まつ毛の一本一本まできめ細やかに見え、その肌は、きめ細かい。そして、その頬が赤くなるのが分かる。
「すまん……月夜野。この態勢は流石にまずい。誰かに見られたら俺は、弁解できない」
「は……離れたいのは、山々なのですが、あ……足をつってしまって……自分で、起き上がろうとすると距離的に先輩と……その……き……キスしてしまいそ……うに」
いや、待ってくれ、なんですかこの、逆ラッキースケベ!
月夜野も割と限界そうで……いやまずいでしょう!このままキスとかしちゃったら!お兄さんお婿に行けない!
……って相変わらず、俺は、なぜここまで戸惑ってしまう。とにかく今は、この状態を打開しないといけない。
「月夜野、お前の肩を触るが許してくれ、今起きあげてやるから」
「うう……面目ないです……」
俺は、顔が真っ赤な月夜野の肩を抱きかかえて立ちあがろうとした瞬間。保健室の扉が開けられた。終わった、今度こそ逮捕エンド……
「英二あまりに遅いから迎えに……迎え……ふうん……へえ」
現れた幼女幼馴染、みどりは、俺と月夜野を見比べて納得したように一人でうなずく。……警察に乗り込まれていた方が良かったかもしれない。
「あの……みどりさん?」
「伊勢崎先輩……誤解ですよ。本当に……」
「別に、良いけれど?逆に弁解されると怪しいし……まあ、私より、可愛い彼女の方が大事なのは、分かるし」
いつものネガティブな感じのしゃべり方は、変わらないし、表情も変わらないのだがどことなく見下されているような気もした。
「いや、みどり。お前が思っているようなことは一切ないからな」
「別に、そこは、疑ってないけれどな。英二は、意外とまともな所あるし、やっていることは、基本的に残念だけど、自分の評価を地に落とすことだけはしないから、きっと、事故だとは、思うけれどさ」
「で……ですよね!そうですよ……私と沼田先輩がそんな関係になる訳なんてないですよ!」
「うん、まだ肉体関係には、至っていないけれど、彼女であることは、否定していないんだ。へえ……うん、英二が全部に入る理由は、彼女ができたからなんだね」
それが誤解ですよ、みどりさん。ほら、月夜野もみどりのただならぬ雰囲気に本気で震えているから……
しかし困った。みどりは、一旦ネガティブな思考に入ると元に戻すのも大変である。メンヘラと言おう訳ではないはずなので、しっかり話せばわかるはずだった。
「みどり、すまん。けれど困っている奴が居たら助けないといけないだろう?お前との昼飯をすっぽかそうとしたのは、俺の不義理だ。だから、怒るな!」
「怒ってないよ……はぁ……まあ、言いたいことは、分かったから、とりあえず、日和ちゃんを助けてあげないと……いつまで抱き合っているの」
「だ……抱き合って……!」
「あ、そっか、そりゃそうだすまん」
俺は、月夜野を起き上がらせ近くに置いてあった椅子に座らせる。
「沼田先輩は、動じないのですね……」
「やましいことはないからな」
「沼田先輩……はぁ……」
嘘です!めちゃくちゃ緊張していましたよ!正体を隠しているとはいえ目の前にいるのは、アイドルですもの!距離が近くてドキドキしない男はいない……まあ、隠してはいるのだけれど。
「二人ともケガはなかった?不順異性交遊じゃなければ、たぶん転んで絡み合ったラッキースケベ的なものだとは、思うけれど。間違えはない?」
「俺の幼馴染は、話が早くて助かる」
「そうですが……むぅ……納得いかないですが、そうですね、私も足をつった以外は、何の問題もなかったです。ライブにも支障がなさそうで良かった……」
ボソッとつぶやく月夜野。だったが、それを聞いてふと疑問に思ったのか、みどりは、月夜野にその疑問をぶつけた。
「あの?日和ちゃんは、何か劇団にでも入っているの?」
「ば……バカ!」
「あ!それは……えっと、げ……ゲームですよ!ライブゲーム……音ゲーのライブ大会がありまして……」
月夜野も気が付いたの、ソフィアみたいな意味の分からない言い訳をかます。
「へえ、ゲーム……私は、あんまり詳しくはないけれど、日和ちゃんって意外とゲームをやるんだ……意外だったな……もっと真面目なイメージがあったな」
「あははは……」
渋い顔で苦笑いをする月夜野。確かに瓶底メガネをかけていると、月夜野は、結構真面目なイメージになる。アイドルモードだと知りの軽そうな今どき女子なのに……本当に女って分からないよな……
「まあ、そう言う事だよ……俺も、初めて知った時は驚いたし」
「ふうん……二人の出会いにも何かひと悶着がありそうだけれど、もう、時間的にもそろそろ、お昼ごはん食べないと五限の授業にも間に合わないよ……日和ちゃんも一緒に食べようよ」
「……そう言えばそうですね!た……食べましょうね」
俺も、便乗して、ことなきを得た……のだがよくよく考えたら、俺は、この保健室には、入部届を持ってきただけで、弁当を忘れていた。
「あの……俺、弁当を忘れたんだが」
「そ……それなら、私が……」
月夜野が意気揚々と近くにあったカバンからお弁当を取り出そうとしたのだが……
「そうだと思って持ってきたよ……みどりちゃんに感謝しなさい、英二」
「あ……ありがとう」
できる幼馴染は、俺のお弁当を持ってきてくれたのだった。それを見てか、月夜野は、少しふくれっ面になっていた。
「ふん!沼田先輩のばか……」
「あの月夜野さん?なんで不機嫌になっている?おかずなら交換するし怒ることはないと思うが……」
「そうじゃなくて……もういいですよーだ!」
なぜ不機嫌になる月夜野、いや、弁当交換ならできるのだがなぜ不機嫌になる。俺は、助けを求めみどりの方を向くとみどりは、本気で申し訳なさそうな表情をしているが、同時に少しため息もついていた。
「いや、私のタイミングも最悪でしたが、それ以上に、女の子の気持ちが分からない幼馴染に少しがっかりだったりもする……はぁ……」
「いや!伊勢崎先輩は、悪くないです!この女の子の気持ちが分からない沼田先輩が悪いのですから!」
「そう?でも本当にごめんね、日和ちゃん」
「いえいえ!」
……分からん。女性が本当に分からない。これ、正解ってあったのかな?俺は、少し迷いながらも、なんともモヤモヤしたまま昼休みを終えたのであった。
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