三話 ハイスペックなんちゃら

 こうして、部員全員が集まった部室。ようやく、活動内容が聞けると思い俺は、安心していたのだが……活動内容を聞いて俺は、震えていた。

「つまり、この部活は、普通の部活に馴染めなかったハグレ者とか、気がふれたヤバい奴が集まる部活という事なんですね……」

「あうう……イリスタソぉ……今治してあげるからねぇ」

フィギュアの壊れた腕を直すデブで不潔な先輩をよそに、月夜野は、申し訳なさそうに話しかけて来た。

「先輩、言い過ぎです。皆さんそれぞれの事情があるんですよ」

……まあ、確かに、芸能人をやっている月夜野にとっては、都合のいい部活だが、他の人たちにも理由があるわけで、俺は、恐る恐る、ソフィアに聞いてみた。

「ソフィア、お前は、ゲーム研究部に入らないのか?あの部活ならお前の好きなゲームやり放題じゃないか?」

「ああいう馴れ合いと妥協が蔓延った部活になんかはいりたくないわよ」

「なれ合いって……」

うちには、ゲーム研究部といういかにも、名門校らしからぬ部活があるが、内容は、やはり名門校で、プロ棋士の生徒やら、ゲームチャンプと言った華々しい成績を収めた超人の集まりのはずだったが、ソフィアは、バッサリと切り捨てていた。

「だってそうでしょ。私に勝てないプロの将棋指しとか、負けたことに言い訳をするゲームチャンプが居ても私は、強くなれないし、アンタには、勝てないもの」

「……いや、俺が、お前に勝てたのはたまたま、だし。ライバル扱いされても困る」

「マグレで私には、勝てないもの!」

……いや、待て、もしかして、ソフィアは、俺に負けたからこんな良く分からない部活に入ったという事なのか!?

「いや、別にあんたに負けたから、この部活に入った訳ではないわよ。ゲーム研究部が弱すぎたから入ったわけだし……」

「よかった……お前の人生なんぞどうでもいいが、責任は、とりたくなかったからな」

「なんでそういうこと言うのよ!」

「まあまあ、どうどう、ソフィア、少年と喧嘩し立って変わらないだろう」

今にも殴り掛かりそうなソフィアを抑える渋川井先輩。

「先輩……嫌味ですか。当たっていますよそのデカい脂肪の詰まった乳袋が」

「それは、ソフィアの匂いを堪能するためには、必要だろう。別に私は、レズではないが、本場アメリカの金髪美少女を目の前にしたら自らの欲など抑えられるはずもなかろう」

なまめかしい先輩を見て俺は、唾をのんだ。

しかし、渋川井先輩は、そんな俺を見ると机を挟んだ対面にいたはずなのに、大きな弧を描き大ジャンプをした。

「うお!あぶな……へ?」

しかし、綺麗な着地、狭い部室で、一切の被害を出さずに俺の隣に着地した渋川井先輩に俺は、驚いていたが、そんな渋川井先輩をソフィアは、注意する。

「渋川井先輩……いちいち動きが、大きいって何度言ったらわかるのですか!」

「いや、失礼。あまりにも少年がうらやましそうな顔で私を見つめていたからね……ついつい、こうやって愛でたくなる訳だよ、私も、なあ少年」

「渋川井先輩!キャインキャイン!」

俺の顔に渋川井先輩は自分の顔を近づけ、からかう様にソフィアを見る。

「……果歩先輩?私は、貴方の運動神経を凄いとは思いますが、流石に危ない……それにエイジ!やっぱりあんたにはプライドがないの!?」

「ない!先輩のやけに高い運動神経は、気になるが特にプライドはない!だってかわいいは正義だから!」

「ふふ、少年知りたいか?私の事?」

「はい!」

「うわ……沼田先輩ってなんかもっと、ひねくれて他人を寄せ付けない系の人だと思ったら、割と気持ちの悪い……まさに、部長みたいなタイプだったのですね……」

「のび太ちゃん……しょうがないわ。私も、エイジと何度か、ゲームしたことあるけれど、コイツの考えって読めないのよ…とこいつが、きもいのは、部長以上な気がする……見た目以外」

「はう!僕がイリスタンを治していると美少女たちの嫉妬の視線が……」

「死ね、糞部長」

「部長、気持ちが悪いです」

俺は、先輩のことを知りたいという欲求に俺は、犬の様にしっぽを振っていた。それを見た月夜野達のドン引きなど知らずに、俺と渋川井先輩は、二人の世界に入っていた。

「私は、そうだね……スポーツに関しては、どうやら、勘がいいらしくてな。昔から、なにをやってもできたんだよ。まあ、飽き性で何やっても続かないから、この部活に入ったのだがね」

スポーツの天才……渋川井果歩……聞いたことがある。

中学では、最強のスプリンターとしてオリンピックの強化選手にも選抜されたが、いざ大会の出場一週間前に突然スポーツ界から離れてしまった謎の少女。……いや、テレビをあまり見ない俺でも知っているのだ、普通の人から見たら神のような存在だったが、彼女がオリンピックに出場しなかったのは、今話を聞いたからか、察しがついた。飽きたからやめたのだ。

無責任だが、その生きざまに俺は、ついつい思った言葉が、口に出てしまう。

「流石渋川井先輩です。大好きです結婚してください」

「私も少年のことは、恐らく人間的には好きだぞ。初対面だから、性的に好きとはいえんが」

フラれた……しかし、それもいい!

「おーい、戻ってこーい馬鹿ども」

「ソフィア先輩。部長専用おしおき道具の鞭がありますが使います?」

「そうね。借りるわ……」

ああ、渋川井先輩がとっても美しくて、鞭を持った金髪ヤンキーなんて目にも入らない。今は、一秒でも先輩との世界に……

「おっと危ない」

「え……痛!」

バチンという轟音が響いた。渋川井先輩は、距離をとって避けたが、俺は顔面に鞭が直撃し、元の世界に舞い戻ってきた。

「帰って来たわね、変態」

なぜか、鞭を持っている貧乳アメリカ人ソフィア、俺は、その時初めて不条理な暴力に見舞われたことを知り怒った。

「いったいな!この暴力外人!」

「私は、在日アメリカ人二世で日本国籍よ!国籍は、日本人よ!それに私、外人って言われるのは、気にくわないちゃんと外国人と国をつけなさい!外人って差別用語みたいで嫌いなの!」

なぜ、ソフィアは、必ず喧嘩腰になるのだろうか、俺もついつい喧嘩腰になってしまうのはいけない癖なのだが……

「まあまあ、沼田先輩もソフィア先輩も落ち着いてください。ここは仲良く」

「「無理!」」

「先輩方!あなたたち実は息がぴったりなのでは!?」

俺達の、姿を見て笑うのは、小汚い先輩だった。

「あははは!やっぱり沼田氏は、面白い。僕が目を付けた新入部員だけある」

「あの、水神先輩?目をつけていたとは?」

俺が不思議に思っていたのは、この先輩……水神先輩もそうであった。この人は、初対面で俺の名前を知っており、気味が悪いと思っていたが、もしかして調べられていた?

水神先輩に俺は、ふと聞くと水神先輩は、愉快そうに答えた。

「いやあ!我が部も新入部員が入らないと廃部だったから、本格的に部員勧誘をしようと、部員候補……学校のハグレ者をリストアップしていたのだよ。その中に沼田氏が居てね。まあ、廃部は、自習部になったし、月夜野氏も入部してくれたから、廃部の危機は、免れたから良いのだが」

「き……聞いていないわよ!糞部長!」

「そうよ、私もソフィアも聞いてないわ、先輩!」

「いやあ、何も部員の諸君らに言わなくても廃部くらい、最強壁サークル同人作家の僕にかかれば、どうということはない」

……いや、この人色々ととんでもないことを言っていたが、一番の驚きは、廃部の危機を一人で解決してしまったということ。俺が、一年、部員の糞どもと抵抗してもなし遂げられなかったことをこの人は、一人でやってのけた。

「なんだ、このハイスペック集団……」

正体をひた隠しにするトップアイドル歌手。ゲームの天才。最強の運動部。さらには、留年している壁サークル同人作家。

……こんなハイスペック集団に俺のような堕落しきった人間が入っていいのかと不安になってしまったのだが、月夜野は、ぼそっと言う。

「安心してください。この人たち、スペックは高いですが、まとめて残念集団ですから」

「月夜野……おまえ、ソフィアの言葉使いに影響で受けているのか?」

「いえ、たぶん部長を見ればわかりますよ……」

俺は、月夜野にいわれ、水神先輩の方を向くと……水神先輩は、ソフィアと渋川井先輩に迫られていた。

「おい、先輩、いつも私は、言っているよな。相談はしろと」

「まあ渋川井君、落ち着き給え……」

「そうよ!糞部長!あんたはいつもそうやって一人で話を進める!」

段々部室のはじに詰め寄られる水神先輩、そして、遺言の様に一言を残した。

「いやだから……まって話せばわかる……」

「「わかるかあぁぁぁ!」」

「あーーーれーーーー」

水神先輩は、思いっきりぶん殴られ、また窓の外に飛び出していった。本当に水神先輩、いつか死ぬぞ……

「ほら……わかりましたでしょ先輩」

「あ……ああ」

確かに分かった。この集団が、ハイスペック残念集団なことは……だからこそ俺は、この部活に入っていいのか迷ってしまった。


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