1話 アイドルとたばこの香りに導かれて(未成年は、吸うなよ)
一瞬の暗転、手には、土とは思えない柔らかい感触がある。まさかとは思うがこれは、オッパイ……いやあり得ない。
どこの世界にそんなラブコメみたいなアホ展開があるのだろうか。いや、オッパイと仮定しよう。どうせもうセクハラだ。逮捕を免れないのなら、シャバでの最後のオッパイだ。揉む!
「あ……あの!?揉んでいますよ!揉んでいます!」
「す……すまん事故……べぇ!?」
いい加減俺は、起き上がると驚いた。もうオッパイだというのは知っていたが、俺が驚いたのは、そんなのことより、オッパイの持ち主の髪型だった。
茶色いツインテールなのだが、そのツインテールは、おでこから長い髪の毛が生えていた……いやカツラなのだ。しかし、俺の下にいる女性は、ウチの制服を着ているから高校生のはずなのにカツラが必要なんて思うはずもなく。
「驚きたいのは、私です!どれだけアクロバティックなセクハラをして……」
女生徒も自分のカツラの状態に気が付いたのか、慌ててカツラを隠そうとしたが、俺は、見たことあるカツラを思わず、女生徒から反射的に奪い取り距離をとった。
「……ん?どこかで見たことがあるような」
「ちょ!あなた!それは……」
俺のもったカツラを見ると少し色が落ちている茶色い髪のショートヘヤーの女生徒。おそらくだが、このカツラの持ち主。女生徒は、慌てて、距離をとった俺に近づきカツラを奪い取ろうとしたが……
「えい」
俺はまさかと思い、見たことのあるようなカツラを近づいてきた女生徒に被せてみるとそこには、テレビで見たことのある芸能人がいた。
「痴漢ですか!いくら私が最強に可愛い女の子だからって強引にされたら警察呼びますよ!」
「……テレビで見たことあるバカアイドルだ!」
怒る女生徒の名前は思い出せないが、最近人気のアイドル歌手らしいが、テレビに出ると馬鹿な発言や行動でお茶の間を笑いに巻き込む……名前は確か……
「アイドル歌手のナントカカントカ!」
「なんですかそれ!私は、月夜野日和……じゃなくてhiyoriです!今大ブレイクしている人気アイドル歌手にして美少女の最頂点のhiyoriです!私は月夜野日和なんかじゃ!」
「……なるほど、月夜野は、アイドルなのか、ふむ、確かに客観的にみれば美人かもしれないが、性格には、難がありそうだな。自分で大ブレイクとか、美少女最頂点とか言っちゃう辺りだいぶ自分に自信があるようだが」
あるよね、顔は見たことあるけれど名前を憶えていない芸能人って。けど完全に思い出した。hiyoriは、みどりが好きな歌手でもあるから、あまりテレビに興味のない俺でも知っていた。
「なぜ私の名前を……って!それはそうだったあぁぁぁぁ!私の馬鹿!馬鹿!馬鹿!自分で自己紹介しちゃったじゃない!正体隠して地元から離れた高校にようやく転校して手に入れた平穏な高校生活を三週間で台無しにするなんて!」
俺は、ドン引きした。女生徒は、自分のことをかわいいとか自信満々に言った後、今度は、頭を抱え、慌てだした。
「うわあぁ……メンヘラとか流石にひくわ……」
「引かないでください!」
俺のセリフに傷ついたのか、自分の失態からか、涙目の月夜野は、慌てて否定してくる。しかし、このままでは、月夜野も慌てているから、埒があかないので、俺は、月夜野を落ち着かせるため両肩を掴んだ。
「あ……安心しろ!月夜野の学園生活は、壊させないから?」
「絶対に私の言葉の内容なんて知らないじゃないですか!それに、名前も知らない男性に両肩掴まれて安心できる女の子がいますか!?」
「あーそりゃ、そうか。すまんな、俺は、沼田英二。高校二年生だ」
……月夜野の意見もごもっともだったため、俺は、とりあえず、自己紹介をして、月夜野を落ち着かせることにした。月夜野も訳が分からないことは、言わずに、少し怪訝そうに俺を睨んできた。
「先輩でしたか……では、私も色々ともう諦めます。私の名前は、月夜野日和です。隠れてアイドルやっていまして、芸名は、安直にhiyoriです。で、私にどんないやらしい脅迫をするのですか?沼田先輩」
警戒を怠らない月夜野だが、俺だってそんなやましいことはしないから安心してほしいが、普通に考えれば、空からセクハラ音が落ちてくるなんて思わないもだろうし、普通は……
「なんもしないぞ?むしろ、なんでそんなことを聞くエロ漫画読み過ぎだろう」
「そりゃ超絶美少女の秘密を握ったのですから……へ?何もしない?」
「うん。そもそも、みどり……幼馴染が、お前のファンじゃなきゃ俺は、お前なんて知らなかった。あんまりテレビってみないし」
……実際に俺は、みどりがhiyoriのファンじゃなきゃ、このアイドルを知る機会なんてなかったからな。意外そうに驚く月夜野……いや、むしろなぜ驚く。
自分の身に危険が及ばないんだぞ?それならむしろ安心するべきじゃないのか?
「……か、それ」
「ん?」
ぶつぶつと何かをつぶやきだす月夜野。これ以上関わるとロクなことがないと思い、こっそり逃げようとしたのだが、月夜野は、それに気が付いており。
「なんですか!それ!私がどれだけ自分を捨てたと思っているのですか!?絶対に逃がし、しません!ついてきてください!」
俺は、月夜野に腕を掴まれた。そして月夜野は、走り出そうとしたが、ふと気が付き、器用にカツラを片手で自分の鞄に入れて、赤茶色のショートヘヤーモードになり、カツラの代わりに黒縁の瓶底伊達メガネをかける。
「よし、これで、沼田先輩以外には、バレません!行きますよ!」
「え……ちょ……月夜野さん!?」
女の子とは思えない月夜野の握力は、俺をがっちりと掴み、校舎裏から走り出した。
俺は、監禁されて、拷問され尽くした後に死ぬんだろうなと思ったが、抵抗する気もうせてしまい、月夜野に連れられるままどこかへ連れ去られた。
そして、俺は、月夜野に連れられるまま保健室にまで連れてかれた。
「おじさん!おじさんどこ!」
「あ……あの話してくれません?月夜野さん?腕がいた……何でもありません」
月夜野は、俺の発言を許さないかのようににらんでくる。冗談ではない本気の睨みは、俺をひるませた。
「ひよりぃ!何度言ったらわかる!おじさんじゃない!学校では先生と呼べ!」
一階にある保健室の庭から、タバコ臭い白衣を着た保健教諭……老神先生が出て来た。この先生は、保険医でありながら、元東京医大主席、ブラックジャックの生まれ変わりなど物凄い異名を持ちながら、素行不良が目立つ不良教師として有名だった。
「おじさん!またタバコ吸ったでしょう!臭いよ!」
「うるさいわい……そんなことより、どうした?横にいるのは……二年生の素行不良の男子生徒だが?悪いがウチは、産婦人科じゃねえぞ」
「おじさん!私とこの先輩が、そう言った関係に見えますか?」
……容赦ないセクハラを生徒にする保健教諭にだけは、素行不良と言われたくないのだが、そんなくだらない話をしていると話がそれる為、俺は、すぐに本題に入った。
「で?先生と月夜野は、どういった関係ですか?随分と親しいようですが」
俺が連れて来られたのをどうやら察したらしく、めんどうくさそうに頭を掻く老神先生。
「あー、こいつは、俺の妹の娘だよ。……つまり姪っ子だな。察するに、うちの姪が迷惑かけたみたいだな……」
「いえいえ、先生が謝ることではないです」
合点がいった。俺は、納得していたが、月夜野はそうでないらしく怒っていた。
「おじさん!違うよ!私が、校舎裏でライブ練習していたら、沼田先輩が空からアクロバティックセクハラしてきたんだよ!むしろ迷惑をこうむったのは私だよ!」
「あぁ?日和、入学してすぐにもう正体が。そもそも、お前が、学校でライブ練習なんてしなきゃよかっただろう。そうやって沼田のせいだけのせいするのはよくないぞ。お前も悪い」
「う……けど、私は、オッパイまで揉まれたんだよ!しかも意図的に!」
自分の不注意を突っ込まれてしまい、よく分からない責任転嫁をしてくる日和だったが、老神先生は、バッサリと切り捨てた。
「それだって校舎裏でライブ練習するなっていったろうに、ライブが近いからって、そういうことした日和が悪い」
「そうだ!そうだ!」
「だって……うぅ……何も言い返せません」
悔しそうに俺を睨む月夜野、しかし不思議に思った。なぜ俺を保健室に連れて来たのか。まさか自分のおじを紹介しに来たわけではないだろうに……そう考えると嫌な予感がした。
「……で、月夜野は、なぜ、俺を保健室に呼んだんだ?」
「そうでした!本題です!」
月夜野は、本題を忘れていたのか、思い出したように声をあげた。
「凄く嫌な予感がする」
「先生もですか……」
聞かなきゃよかったと思ったが、それでは、俺は月夜野からは逃げられないだろうし、セクハラされたなんて言われたら、最期だったから聞いたが、嫌な予感は、先生も同じらしく、俺達の前で月夜野が宣言した。
「沼田先輩!あなたには、私の叔父が部活の顧問にして、私の所属する部活に入ってもらいます!これからは、なるべく一緒にいないと、いつ私の正体をばらされるかとヒヤヒヤしてしまいますもん!」
「いやだ!」
俺は、断ったのだが、俺から目をそらし、なるべくかかわろうとしない先生は、目をそらしながらてきとうに受け答えて来た。
「あーいいんじゃないか?沼田は、まだ、部活も決まっていないんだろう……」
この後、抵抗したのだが、月夜野は意外と頑固で、翌日、部活の見学を約束するまで何時間も説得され、結局最後は、死んだ目の先生に諭され、やむなく俺は、了承したのだった。
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