ラブコメなんてクーリングオフ
優白 未侑
プロローグ 叶わなかった!わ、僕たちの物語
名門戦国峠高校の広報板に張り付けてあった一枚の紙に書かれていた文字。
自習部、廃部のお知らせと簡素に書かれた。ほとんどの生徒がこんな紙、気にも留めないが俺は、震えていた。
「だ……大丈夫で!沼田氏!」
「いや!英二氏の震えを見たら大丈夫な訳無いでござる!」
同じ志を持つ、デブの細山とガリメガネの太田が、俺の心配をした。
「ライブすれば、廃部阻止とかそういう展開なのか……これは……」
「それは無いでござるよ……僕たちは美少女ではなくタダのモテないキモ男でござる!」
ガリメガネは、俺に現実逃避を現実逃避させない。だからまとめちゃえば簡単なことであった。
名門戦国峠高校は、成績優秀、部活動も全国常連、入学すれば将来の高給取りとまで言われる名門高校であるが、名門故、校則も厳しくその中の一つが俺を苦しめていた。
『生徒は、部活もしくは、委員会活動に必ず参加すること』
名門校の生徒にとっては、三年間うち、大抵が存在すら知らずに卒業する校則の一つかもしれないが、名門校の生徒がみんな真面目で優秀と言う訳でなく。働きアリも二割は、サボる様に名門高校にも俺たちのような、自堕落な生徒が少なからず存在するのだ。
「……でも自習部がないならどうするんだぁ?」
そして、デブとメガネと沼田英二は、自習をする部活と称し、ただの帰宅部を秘密裏に作っていたのだが、去年、廃部の危機に陥り、無駄な抵抗をしたのだが、見事に二年生の新旧と同時に廃部が決定したのだった。
「細山氏……諦めてアニ研に行こうでござる」
「そうだなぁ英二はどうする?」
デブたちは、アニ研に入るかとあきらめ、俺も誘ってきたが、帰宅部には、そこまで絆は芽生えないため、丁重に断ることにした。
「いや、気持ち悪くて……じゃなくて崇高すぎて、入りたくない……じゃなくて、入れないよ」
「沼田氏……僕らは友達じゃ……」
「え?友達じゃないだろう、同じ志を持っただけの元クラスメイトだろう」
この日、俺は、同志と部活動という名の自堕落な生活を失ってしまったのであった。こういう時、桜散るとかいうのだろうか……まあ、とにかく、楽な部活を探さなくては……
こうして、俺は、意気揚々と部活巡りを始めたのだった。
「はぁ……部活も委員会も見つからない」
進級から数日が経った放課後の誰もいない図書準備室。ここは、本来、図書委員しか入れないのだが、とある人物がいるときのみは、入れる絶好の息抜きポイントだった。
「英二は全く……しょうがないなあ……」
長い黒髪を腰まで伸ばした制服を着た幼女……の様な同い年の幼馴染、伊勢崎みどりは、呆れながらも、俺の息抜きを認めてくれている。
「みどりぃー楽できる部活無いか?」
「無いから、図書委員はいらない?楽しいよ……?」
「みどりが可愛い幼女で俺は、ロリコン扱いされるから入りません!」
「私みたいなちんちくりんは、可愛くなんてないから……大丈夫だよ?」
控えめにみどりは言うが、実際みどりは、可愛い。前髪が長くて、目立たないが、整った顔は、一部のロリコンに崇められているが、昔から、やたらと自信のなく、恥ずかしがり屋のみどりは、あんまり自分の扱いに納得していないのか、少し頬を膨らませる。その仕草が可愛い。
「いっそ、みどりを愛でる会でも作るかぁ」
「作らないでよ!英二は、本当にやりかねないんだから!」
「エイジ、シナイ、ゼッタイ」
中学の頃に作ったことがあるのだが、これは秘密だ。今でも形を変え残っているらしいが、流石にもう、居なくなって二年目になるのだ、実態なんてもう知らない。
「……もう、なんで私みたいなのに英二みたいな凄い幼馴染がいるなんて思うと、貝になりたくなって来るなあ。英二だってもう私にかまわなくていいのに……」
「出たネガティブ!」
そして、俺を羨ましそうに見るみどりだが、彼女は、今まで一度も自分のしたことに自信のない少女でもあった。幼稚園の学芸会で、役決めの時に人の影にひっそり隠れていたのを俺が見つけ、自主的(強引)に一緒に主人公を勝ち取ったりもした。
「それは、英二みたいに私は、自分の信念なんて持っていないですもん。それなのに、なんで最近は、こうもダラダラしているのか……」
「まあ、そういう生き方の方が楽だろう」
しょうがない、昔のことだ、俺は、もう目立とうなんてしないし、したくもない。誰かのために貧乏くじなんて引きたくない。
「だけど……英二は私のために……」
みどりは、また俯いてしまう。みどりは、素直でいい奴だ。きっと俺のことを考えて落ち込んでくれているのだろう。だから俺は、みどりを安心させないといけない。
「あれは、俺が悪いことだ。みどりが悩むことじゃあないって言っているだろう」
「……だからそれが。ううん!こういう時は、ありがとうだよね!」
「そうだ、感謝するなら、俺に楽な部活か委員会を紹介してくれ」
「無理。……それは、自分で見つけるべきだよ?それでも見つからないなら、私が、図書委員に推薦してあげるけど」
「本は、好きだが、他人に奉仕したくないから無理!」
「なんとも、英二らしい理由……」
苦笑いをするみどりだったが、そんな話をしていると、扉の向こうから、声が聞こえて来た。
「伊勢崎ー?まだいるのか?」
委員会の担当教師の声だ。委員会の担当教師は、頭が固い奴が多く、図書委員と無関係な俺が居たら、入会希望と勘違いされる。
「みどり……、すまんさらばだ!」
「え!英二!?」
図書準備室は、二階にあるため、俺は、窓を開け、飛び降りた。それは、自由への逃避行の為であったのだが……今日に限って、着地地点のあたりに人がいた。直撃はしないが上から人が落ちてくるなんて知らない人は、俺を避けることなく……
俺は、重力に身を任せた。
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