EpisodeⅡ 愛別

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 まだ天帝国ができる前のお話。

 ロアが生まれた日。


――バンッ。


 ホークが病室の扉を強く開ける。


「リア!」


 赤ちゃんを腕に抱きベッドに横たわるセシリアはその声にハッと驚いた様子でドアの方を見た。


 にんまりした笑顔でホークの顔を見るセシリア。


 汗だくのホーク。


「すまない……辛い時にそばにいてやれなくて」


 ホークがセシリアの手を握る。


 窓の外を見ながらセシリアが口を開く。


「いいのよ。いつもあなたはみんなのために頑張っているんだから。こんな時ぐらい私も頑張らないとね。でも、寂しかったから……」


 そう言うとセシリアはホークの方を振り向き、瞳を見つづけた。


「ぎゅっと抱きしめて。……この子と一緒にね」


「あ、あぁ」


 ホークは包むように2人を抱きしめ、セシリアのおでこにおでこをくっつける。

 目をくりっと見開き2人の顔を下から無邪気に見つめる赤ちゃん。


「かわいいでしょ。あなたにそっくり」


「そうかなぁ」


 と照れくさそうにホークが言った瞬間――。


 赤ちゃんがキャッキャと笑い出す。


 ホークが赤ちゃんの頭を優しくなでる。


「名前はロア……。私たちが生まれ育った大好きな故郷にあるロア湖からとったの。そして、私たちが出会った場所……」


「うん。いい名前だ」


「でしょ、私センスあるでしょ」


 ホークは笑う。


「リアはセンスの塊だよ」


「そこは「何ドヤ顔してるんだ!バカ」でしょ。これじゃあ、ただのバカ夫婦じゃない」


 セシリアとホークが一緒にクスクス笑うと続けてロアも笑い出す。


 しばらく笑うとセシリアはどこか寂し気な視線で、また窓の外を見つめた。


「ホーク。大事な話があるの」


「リア……」


 ホークはセシリアの横顔を見つめた。


「この小さな国のこと、あなたの立場は十分にわかっているわ。だからね、私と約束してほしい。……私たちの生まれたこの大好きな故郷『オンネトロア王国』を守り続けること。そしてロアを必ず守ること」


 ホークは少し視線を下に落とす。


「あぁ、必ず約束する。……それと、リア。オレは君も必ず守るから」


「それは当り前じゃない!それは約束とか関係ないんだからね!」


「あぁ、そうだったな」


 ホークの顔を見て、セシリアは口元を緩ませ涙ぐむ。


「なんで、あなたも泣いてるのよ」


 笑いながらもホークの目から流れる涙。


「君がだろぉ」


『その約束を叶えるためには二人はもう二度と会えないとわかっていても、その言葉をお互いに口にすることはしなかった』


 ホークはロアの頭をなで……

 そして黙ったまま、目を見つめ続けるセシリアの頭も優しくなでた。


「それじゃあ。セシリア、ロア行くね」


 立ち上がるホークはセシリアに手紙を渡す。


 セシリアは頬を赤らめ満足そうな顔でその手紙を受け取ると涙を流しながら口を開いた。


「うん、またね。ホーク」


―――――――――――――――――――――――

『セシリアへ』


 リア、君との約束は必ず守ります。

 だから、オレからも1つお願いがあります。

 

 ロアにはいつか父親のことを聞かれるかもしれません。

 でもその時はオレがもうこの世にはいないと伝えてください。


 父親がいるとわかれば会えないことでロアに寂しい思いをさせちゃうし、

 オレは会ってやれないから父親らしいこともしてあげられないし。


 大丈夫。オレたちの子だから。


 最後にはなりますが

 愛してくれてありがとう。

 そして、いつまでも2人を愛しています。


『ホーク』

―――――――――――――――――――――――


 セシリアはその手紙を見た後、ロアを抱きしめながら病室で泣き崩れ落ちた。


「ごめんね……ロア」


 ロアは無邪気に笑った。



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 第2王宮内、第2王室前。


――バタンッ。


 ホークは勢いよく音をたて、扉を力強く開いた。

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