第30話 北朝鮮の最高指導者
1910年の韓国併合から1945年日本が太平洋戦争で敗北するまで、朝鮮半島は日本の支配下にあった。その植民地支配に抵抗するレジスタンスが「抗日パルチザン」だ。そのメンバー、
彼の方針は抗日。つまり朝鮮の独立。そして大戦後は、米ソに分断された南北の統一だった。
金月成はマルクス・レーニン主義を、
が、1990年代初頭に、ソ連と中国が相次いで、韓国と国交正常化をおこなってしまった。ソ連・中国・朝鮮、対、アメリカ・日本・韓国という共産主義と資本主義の対立構造が崩れてしまい、北朝鮮は前後を挟まれる形となった。
1994年に
北朝鮮が黒鉛減速炉の開発を凍結するのと引換えに、アメリカが2003年までに軽水炉を提供し、この完成まで代替エネルギーとして年間五十万トンの原油を供給する。北朝鮮はNPT(核不拡散条約)にとどまり、核査察協定を遵守するというものだった。
これで祖国は再び豊かになる。平和的に南北統一への道を歩める。多くの朝鮮人はそう信じた。1996年、
2000年、
さらに、アメリカの政権がクリンドンからプッシュに移ると、プッシュは、北朝鮮が「米朝枠組み合意」を遵守しているにもかかわらず、一方的にその合意を破棄した。
それだけではない。2001年。
9.11同時多発テロが起きた時、
プッシュは言った。あの国は「吐き気がする」と。そして、制裁という名の厳しい経済戦争を仕掛けられ、北朝鮮はますます疲弊していった。
まずは休戦協定を和平協定に持っていく必要がある。が、アメリカの腰は重かった。
国務委員会・特別執務室。
部屋には絨毯。壁には
核実験の成功により、この年(2018年)の六月には、ようやくアメリカのサランプ大統領と首脳会談にこぎつけたが、それから交渉は停滞していた。晶勇は泰南に聞いた。
「核をすべて捨てたら、アメリカは国交正常化を進めると思いますか?」
「ほほほ。核を持って初めて交渉の場を持てたのにか」
泰南の表情は、しわだらけで笑っているのか悲しんでいるのか分からない。晶勇は、その答えは聞くまでもなく分かっていた。核を放棄したらそこで終わりだ。アメリカは北朝鮮を再び無視する。放棄は、自分の城の堀を埋める行為と同じであり、祖国は交渉のカードを失うだけだ。
生前、
「サダム・ワセインの二の舞になるな」
イラクのワセインは2003年、プッシュ大統領に核兵器を持っていると濡れ衣を着せられた。イラクは米軍に侵略され、ワセインは死刑となった。国土は荒廃し、イラクは自国の石油利権を失った。ちなみに日本はこの戦争に「イラク特措法」を制定することで自衛隊を参加させている。
「第一委員長……」
「ジョンウンでいいですよ」
泰南は遠くを見るようにして語った。
「んじゃ、ジョンウン。私はね、朝鮮戦争のことをつい昨日のように覚えている。私はまだ学生だった。あと少しだった。もう少しで、ドイツのように米ソに分割統治された朝鮮半島を、私たち朝鮮民族が統一するところだった。それをあの憎っくき米軍め。悲惨な戦争だった。あの戦いで二百万以上の尊き同胞の命が失われたのだ。私の多くの親友たちもそこで死んでいった……。くそっ、あいつらさえいなければ、今頃、朝鮮はひとつになっておったのだ……」
「くだらんアメリカの帝国主義に、なぜ私たちは犠牲にならにゃならんのか」
「そうですね」
「ベトナムはもっとひどかった。アメリカはトンキン湾で自分の国の駆逐艦を自分で魚雷攻撃して、それを口実に大規模な軍事介入をしおった。五百万人以上が死んで、今でも枯葉剤の影響で、あの国民たちは苦しんでおる。イラクはどうだ? アフガニスタンはどうなった?……」
この話は何回目だろうか……。晶勇は手の爪をいじりはじめた。
「聞いてるか?」
「は、はい」
晶勇は慌てて視線を上に戻した。
「サランプ大統領はどんなやつだった?」
泰南が聞くと、晶勇は、何回言ったっけ、と思ったが、それに大人しく答えた。
「そうですね……。嘘と笑顔で固められた人間でした」
「信用できるか?」
「私のことをロケットマンと呼んで、アメリカファーストを公言している人間ですよ。しかし、アメリカとの関係を進展させなければ、我が国の未来はありません」
泰南はウンウンとうなずく。
「信用できませんが、南朝鮮からの米軍撤退を示唆していることを考えると……」
「甘い。アイツはプッシュと同じ資本主義の犬だ。自分の利益にならないことは何もしない。この間も、『中距離核戦力全廃条約』を一方的に破棄すると言ったばかりじゃないか」
「まあ、そうですね……」
「万が一、交渉の場で何かの合意に取りつけたとしても、奴らはいつでもそれを破棄する。我々をエネルギー不足にさせ、いわゆる『真珠湾攻撃』をさせたいんだ」
「では、いったいどうしたら良いのです」
晶勇は聞くが、泰南は「知らん」と言った。
「私は明日にも
泰南はそう言って遠くを見た。
晶勇は「そりゃ無責任だろう」と心の中で思った。彼は「そう言えば、日本から拉致した……」と話題を変えようとした。
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