先輩救出大作戦 (マジック・オブ・ザ・アドべンチャー・――冒険者と高校生と魔法のコード――シリーズ1)

夢学無岳

第1話 プロローグ




 日本発のMMORPG(マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロールプレイングゲーム)、『Magic of the Adventureマジック・オブ・ザ・アドべンチャー』は、剣と魔法のファンタジーRPGゲーム。ダウンロード数、ソフト販売数が九千五百万本を超える大ヒットを記録していた。


 なぜ、そこまでヒットしたのだろうかと、テレビや雑誌、ネットでも、自称ゲーマー、経済評論家、コメンテーターたちは、さまざまな意見を交わした。



 ヒットの理由の第一は、始めるにあたっての敷居が低いことだった。


 『Magic of the Adventureマジック・オブ・ザ・アドべンチャー』、通称MOTAは様々なプラットフォームに対応していた。家庭用および携帯用、各種テレビゲーム、パソコン、スマートフォン。新たにハードウェアをそろえる必要がない。またスタンダード版とアップグレード版の二種類が発表されていたが、スタンダード版は、無料ダウンロードが可能だ。お金をかけることなく、すぐに始められる。それがひとつ。


 また有料のアップグレード版は、基本内容はスタンダード版とまったく同じだ。それでも、これを購入するものは少なくなかった。一度でも体験してみると良い。そこには驚くほどのリアルで美麗な世界があった。最新のVR(ヴァーチャル・リアリティ)にも対応していたので、MOTAのお陰で、VR機の売り上げが倍増したほどだった。


 同じアカウントで、スタンダード版とアップグレード版、どちらもプレイできる。たとえば、外出時にはスマホでプレイし、帰宅後に大画面テレビやVR機でプレイをするファンも多かった。



 ただ、それだけだと、そこまでのヒットは考えられないと、ある評論家は言った。MOTAの最大の特徴は、プレイヤーから「製作者は頭がおかしい」と言われるほどの、最新技術の導入と作り込みにあった。


 まず最先端の同時翻訳システムを導入した。これにより世界中の人と気軽に会話したり、冒険を楽しんだりすることができるようになった。さらに、AI技術を用いてNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)を人間らしく行動させ、また会話させることに成功した。個性ある魅力的なNPCたちにファンがつき、アニメやマンガなどの二次制作が行われるようになった。


 MOTAには色んな楽しみ方があった。プレイヤーの多くは冒険者となって世界のさまざまな遺跡、ダンジョン、未踏の山や広大な海、砂漠などを探検する。ドラゴンや魔物と戦う。それだけではない。村を造ったり、王国を建てることも可能だった。基本の職業は百種を下らず、さらに自分で新たな職業を作ることも可能だ。ある者は鍛冶屋、ある者は農民として生活することを楽しんだ。



 製作者はMMORPGにありがちな悪質プレイヤー対策をすんなりと解決した。監視を強化し、警告やアカウントの停止などのペナルティを課すのではない。


 「いいね!やだね!」システムの導入である。各プレイヤーによる申告に加えて、一定の行動、人助けをしたり、物をあげたり、慈善行為を行うと「いいね!」ポイントが上がる。悪質プレイを行うと「やだね!」ポイントが上がるのである。これらのポイントにより、ゲームの難度、運が左右されるのだ。たとえば「やだね!」が高いと、襲ってくる魔物が強くなって、攻略できないダンジョンも少なくない。自然災害などにまきこまれる確率も増える。自然と、多くのプレイヤーは「いいね!」を求め、悪質プレイは驚くほど減少した。


 膨大な情報量。町、NPC、職業、魔物、植物、食べ物、アイテムなどは万を超えるほど数が多い。オリジナルの服や武器、防具、工具、装飾品、魔法道具などのアイテムや、独自の魔法すら新たに作ることもできる。


 冒険しつくせないくらい広大な世界。すべてを知りつくせない量のアイテム。隠された多くの謎。そして心地よいゲーム内の雰囲気。MOTAは多くの人々の心をつかんだ。




 京都の片田舎に暮らす高校二年生。文芸部員の日向翔一ひなたしょういち。彼はゲームと謎解きが大好きだった。


 彼もまたMOTAにはまっていた。毎晩のようにログインし、友人の秀樹と保志とMOTAの仮想世界で遊んでいた。


 翔一は、この先、現実世界で想像もつかない冒険が待っていることを知る由もない。


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