遊びの恋と本気の恋と

Twitter300字SS第42回お題「遊ぶ」より(300字、改行・スペース含まず)


 彼にとって遊びだったことは分かっていた。在学中だけのお試しのような恋愛。

 事実、卒業を機にきっぱり別れた。最初から一庶民が手を出せるような相手ではない。

 それでも、私は本気だった。本気で彼に恋して、本気で彼を愛した。私の差し出せるだけの「初めて」を彼に捧げて、その時の思い出と温もりを後生大事にこの胸の中だけに閉じ込めて生きていこうと思うほどに。

 それで満足だったのに。


 五年も経った今になって、何故目の前に彼がいて跪いていたりするのだろう。


「遊びじゃなかったの?」

「遊びで手を出すか」


 五年待たせたが、やっと一族から解放された。やっとお前と一緒に生きていける。

 そう言って彼は私の手を取った。


「だから俺を選べ」


【了】

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