Forget-Me-Not

Twitter300字SS第34回お題「渡す」より(300字、改行含まず)


「僕が死んだら開けてくれ」


 ある日、親友から意味深長な言葉と共に白い箱を渡された。

 染み一つなく真っ白で、手の中に収まるほど小さな箱だった。


「死んだらって何。冗談?」


 文句を言っても、彼は笑うだけ。

 ただ箱を押しつける手の力は強かった。


 暫くして、彼が死んだ。

 本当に死んだ。

 実に呆気なく、親友は目の前から消えてしまった。

 病気、だったらしい。

 葬式の時になって初めて知った。


 その晩、あの箱を開けた。

 中には小さな青い花のブローチが一つだけ。

 花言葉は、かの有名な。


「馬鹿」


 そう面と向かって言いたい相手は、もう空の上だ。


 花言葉に込められた彼の願いは成就するだろう。

 彼を忘れるなんて「わたし」にはもうできはしないのだから。


【了】

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