58話「疑惑から確信へ……」
今日も相変わらず
『ああ、だったら部長と知り合いだけど?』
まさかのその部の長と知り合いだったとは。コイツの顔の広さは俺が想像していた以上のものみたいだ。いつの間にそんなにコネクションを広げていたのだろうか。コイツやりおる。
『マジで!? 連絡先もらうことって可能?』
こんなラッキーチャンス、絶対に逃すわけにはいかない。なので俺はすぐさま連絡先をもらえるか確認をとる。もちろん見ず知らずの他人に教えてもらえるかは本人次第だ。だから修二の知り合い同士の縁で何とかならないかと、俺は淡い期待を抱いていた。
『おう、ちょっと聞いてみるわ』
『休んでるとこ、悪いな』
俺はその返事に、一言そう感謝の言葉を述べる。実際、アイツは治りかけとはいえまだ万全な状態ではないだろうし、本来なら安静にしていた方がいいだろう。こんな手間をかけさせてしまったのは申し訳ないとは思う。でも俺は今すぐにでもその答えを知りたかったのだ。俺の好奇心はもう止まることはできなかった。
『いいって、そんなこと。気にすんな』
そんな柄にもない俺の言葉に、いつもの感じで軽く返してくる修二だった。
『――部長に訊いたら、いいってさ。ほらこれがアカウント↓』
それから少しして、相手からの了承を得たようで、その文とアカウントIDを貼り付けてくる。これでこの好奇心の答えを導き出すことができる。そう思うと、心がワクワクして嬉しさが込み上げてくる。
『サンキュー!』
俺はすぐさま修二にそう感謝の文を送り、速攻で貼られたアカウントIDを通して部長さんにコンタクトを取る。軽く事情を説明し、写真がほしい
『構いませんわ。じゃあ、お昼休みに写真部の部室にいらして。場所は分かる?』
とすんなりとオッケーが出た。俺はその部室の場所はわからなかったので、部長に場所を聞いて後はお昼休みにその場所へと向かうだけとなった。今からもうその時間が待ち遠しくて仕方がなかった。なんか冷静に客観的に自分を見ると、ちょっと修二みたいに気持ち悪い感じになっているけど、そこはご
「――あっ、
そんな最中、特別棟へと向かう廊下から、外でおそらく体育のためにグラウンドへと向かっていく渚の姿がそこにはあった。体育であるが故に長い髪をポニテにして縛って、そのテールが歩く度にゆらゆらと揺れている。そしてポニテにしたことによって露わとなるうなじ。そんな渚の姿を見て、今の俺が感じること……
「可愛い……」
本校生になってからも俺は渚のポニテ姿なんて何度も見たことがあるのに、今のそれは俺に今までとは違うものを与えていた。この胸が抱えるもの、それは俺が昨日抱いていた疑念を徐々に確信へと変えていくものであった。もうほぼ俺の予想は当たっていると言ってもいいだろう。後はそれを完全なる確信へと移すために、アレを手に入れなければ。きっとそこには俺の求めている答えがあるはずだから。
「ん?」
そんな可愛い渚の姿に見惚れていると、『カシャッ』と言う音が聞こえたような気がした。すぐさま俺は辺りを見渡してみるも、とくに怪しい人影はなかった。俺の聞き間違えならばそれでいいのだが、如何せん俺が今していた行動は『幼馴染のポニテ姿に見惚れている』というなんとも気持ち悪いことをしていたのだ。だからそんな姿を撮られたとするならば、今すぐにでもその犯人を突き止めてそのデータを削除しなければならない。悪用されて、渚の耳に入ったら大変だ。だからその心配が残るのだが、ただ周りにはやはりそれらしき人はいない。なので『俺の気のせいだった』と結論づけて、諦めて目的の教室へと行くことにした。もちろんその間も警戒をして、辺りに気を張っていたが特に怪しい人物はなかった。俺の思い過ごしだといいけれど……と不安になりつつ、教室の中へと入っていくのであった。
「――うしっ、行くか」
それから時は経ってお昼。俺はさっさと昼食を済ませてその目的の部室へと向かうことにした。待ち遠しかったこともあって、足早に部室へと向かっていた。もう早くその例のものを手に入れたくてしょうがなかった。そしてそれからいよいよ部室へと辿り着き、俺はその扉を開く。部室には部長さんと思しき人が座って待っていた。その部長さんはとんでもない美人さんだった。むしろこの人が被写体になりそうなそんな美しい人だった。髪がウェーブのかかったロングヘアーで髪にツヤがあってキレイで、さっきのやり取りでの『お嬢様言葉』も相まって、それこそホント上流階級のお嬢様みたいなビジュアルだった。俺は思わずそれを見つめたまま、立ち止まっていた。
「どうしたの? 入って」
そんな
「あっ、ああ。すみません」
その言葉で我に返り、部長さんの案内のもと、中へと入っていく。というか、よくよく考えるとこんな綺麗な人とコネがある修二って何者なんだ。『知り合い』って関係がいかほどなものなのかは知らないが、珍しく修二をすごく思う俺がいた。
「はい、これがそのデータですわ」
俺が部長さんのもとへと着くとすぐに部長さんは予め頼んでおいた、あのミスコンの時に撮った俺と渚の写真のデータを渡してくる。
「あ、ありがとうございます!」
「でも、なんでしたら携帯にデータを直接送りましょうか? このままでは無くした時に、誰かに見られてしまう危険性もありますし、そちらの方が安全でしょう?」
さらにその部長さんはそんなとても気が利く提案をしてくる。
「たしかに。この小さいのじゃ……無くす危険性は大ですね」
やっていることがやっていることだけに、危険な芽は全て摘んでしまいたい。一番最悪なのは、これを落とした人物が俺だと分かっている状態で中身を見られてしまうことだろう。それを避けるためには、やはり直接俺の携帯にそのデータをもらうのが一番いい。携帯ならまず無くすことはないだろうし、ロックがかかっているから安全だ。そんなわけで俺はメッセから直接写真のデータをもらうこととなった。これだったらわざわざこの部室にまで来ることはなかったな。そのままあのやり取りの中でもらってしまえばよかった。
「あっ、そうそう。これもついでに差し上げますわ」
そんなことを思っていると、どうやら部長さんはまだ俺に渡したいデータがあるようで、そう言ってメッセにデータを送ってくる。それは相変わらずの画像データで、それを開いてみると――
「およっ!?」
そこには渚のウェイトレス姿があった。これは忘れもしないあのクリパでのクラスの出し物の時に着ていたあの衣装だ。ということはつまり、これはクリパの時に撮ったというわけか。それにしてもこの渚、あの時も思っていたけれどとてつもなく似合っている。そしてものすごく可愛かった。これはたしかに今の俺にとってはとても嬉しいデータだった。ただそれで1つ疑問が残る。
「で、でももどうしてこれを……?」
部長さんはなぜ俺にこのデータを渡してきたのだろうか。彼女は『ついでに』と言っていた。俺が話した事情も、『
「ふふふ、お好きなんでしょ、渚さんのことが」
それに全てを悟ったような顔をして、俺を上品な感じで笑い、そんな全てを見透かしたような事を言ってきた。
「ヘッ!?」
俺が感じていたことをまさか人から、しかも今日が初対面の人に言われてしまった。もう既に朝の時点で明日美にもバレているようなものかもしれないが、その時はハッキリとした言葉はなかった。でも今回はハッキリと俺の耳に入る声量で、その事実を突きつけられたのだ。でもどうしてこの部長さんが俺のその本心を見透かしているのか、それが不思議でしょうがなかった。
「
「な、ななっ、何が……ですか?」
俺は怯える感じで恐る恐るその続きを部長さんに問う。見ただけでわかってしまうほど、俺はわかりやすいのだろうか。それだとこの部長さんならず、もっと他の人にもバレる可能性があって大変に危険なことになるのだけれど。
「貴方様は彼女に恋した目をしていらっしゃる」
そんなわざとらしい言い方で、そんなことを言ってくる。やっぱりそれほどまでに俺の目はわかりやすいのかもしれない。そう思うと、これからが心配でしょうがなかった。明日には修二も復活するし、バレる危険性は一気に高まるだろう。その俺のしている目が、部長さんにしかわからないものだといいのだが。
「それにこのグランドに向かっている彼女を見つめている、この写真が何よりの動かぬしょーこっ」
そんな不安がっている俺をさらに
「あっ!? それっ!」
そうか、なるほど。あの時の音はこの部長さんのものだったわけだ。たぶん俺の思いに気づいたのも、この時だったのだろう。自分で見てもわかるほどに、その目は気持ち悪くとろけた感じになっていた。
「ああ、大丈夫。言いふらしたりはしませんから。私たちはただ素敵な写真を撮りたい、ただそれだけのために活動している部ですから。人のプライベートを暴きたいだけの、報道部とは訳が違いますの。だから、安心してくださいね」
「はい、ありがとうございます。でもその写真……本人に許可取ってないですよね」
人には肖像権というものがある。だから無許可でむやみやたらと写真を撮ってはいけないのだ。しかもこれはもはや犯罪レベルの盗撮だ。いくら報道部とは違うとはいえ、結局やっていることは同じなような……
「ふふっ、それは言わないお約束よ。あの連中とは違って私たちは悪用なんてしませんもの。それに掲載するのであれば、ちゃんと許可も取りますし」
部長さんは人差し指を俺の唇に当て、そんな屁理屈みたいな言い訳で俺の問いかけをかわしてくる。それでもどうなんだろうと思うけれど、おそらくこの人たちは純粋にいい写真を撮りたいだけなのだろう。それがなんとなくこの部長さんとのやり取りや、部室に貼られている写真を見て、それが伝わってきた。それに報道部とは違って悪い噂も聞かないし、ヤツらよりはマシな存在なのだろう。今回はこの部長さんに免じて、そういうことにしておこうと思う。
「――ああ、そうだ、煉さん。最後に1つ」
そんなわけでこれで用事も済んだので、教室へ戻ろうとした矢先に部長さんが俺を呼び止める。
「え?」
「煉さんと渚さん……ふふっ、とてもお似合いでしてよ。頑張ってくださいね」
また小悪魔みたいに笑って、そう俺を応援の言葉をくれる部長さんであった。なんか今日は先輩たちにしてやられてばっかの日みたいだ。この部長さんといい、明日美や凛先輩まで……なんか俺って上級生にからかわれる率が高いよな。先輩たちの中での俺の扱いってどうなっているんだろう。そんなどうでもいいようなことが気になりつつも、俺は自教室へと戻り、修二もいなくて暇なので暇つぶしがてらテスト勉強にでも励むことにした。
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放課後、家に帰ってすぐに自分の部屋へと行き、カギをかける。こんな気持ち悪い姿なんて、姉の
「おお……うつくしい……」
そこにあったのは見覚えのあるウェディングドレス姿の渚。でも今ここにある感情はあの時の、この写真の中の時では感じていなかったものがあった。軽くメイクもして、ウェディングドレスのおかげで露出した
「やっぱり俺って……」
たしかに渚とは気が合うし、俺がこの学園で一番仲のいい異性といえば、やはり彼女だろう。だから冗談も言い合えるし、ふざけあったりもする。でもそれはあくまでも『幼馴染』の関係だから、と思っていた。気づかない内に、次第にそれは『恋』へと変わっていたんだ。好きだからこそ一緒にいたくて、好きだからこそふざけあってじゃれ合いたくなっていたんだ。
『どうやら俺は諫山渚が好きみたいだ』
そんな結論が俺の中で下されてしまった。いつのまにやらアイツに恋に落とされていたみたいだ。それがあの体育館倉庫の出来事でついに爆発してしまった、と。もうこうなってしまったら、止まりようがない。俺は好きを求め続けることだろう。でもそうなると、1つ問題が出てくる。それは
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