54話「振り回される妹」
テスト前の授業ということもあって、テスト勉強させてくれる先生、テストなんて構わずに先にどんどん進めてしまう先生、まだテスト範囲のところまで終わっておらずに焦って授業する先生など様々だった。そんな午前の授業を経て、時はお昼休みを迎えていた。今日は
「どした、渚」
とりあえず無視するのも悪いので、彼女の元へと行き、とりあえずその用事を訊いてみることにした。
「ねえ今日さ、
「はァ?」
そんな全くもって意味不明なお願いをしてくる幼馴染に、思わずそんなちょっと強めに聞き返してしまう。『澪と一緒に』というぐらいだからおそらく自分はいないわけだ。でもじゃあ何でその相手が俺なのだろうか。それに澪だって子供じゃないんだから、仮に渚に何か用事があってもお昼ぐらい1人で食べられるはず。それならなおのこと、俺が一緒に食べる必要性が全く感じられない。それにもし澪が『俺と一緒に食べたい』という事ならば、それは渚から頼んでくることではないだろうし。
「今日、私ちょっと忙しくてさーぼっち飯は可哀想でしょ?だから」
「『だから』って言われても……なぁー……」
正直な話、そのノリはあまり好きではなかった。一見すると、お姉ちゃんが妹のために気を回しているともとれるけど、俺からすればなんか姉に強制されてるみたいに見えてくる。それは『あの件』もあるからだろうし、俺にも姉がいるからそう感じるのだと思う。自分の思い通りに妹を動かしているみたいな。そんな妹がロボットみたいに操られているのは、俺も弟の身としてちょっと嫌だった。
「何、嫌なの?澪と一緒に食べるの」
そんなノリ気じゃない俺を見て察したのか、どこかツンケンしたような感じで言ってくる渚。
「別に嫌ってわけじゃないけどさ……ちなみに本人はどう言ってんの?」
この感じからしても
「ん?別に、『煉と食べてもいい』って」
「ふうーん」
渚のその言葉に、俺は純粋な心で受け止めることはできなかった。どうしても疑いの念を抱いてしまう。その澪の言葉も、渚の言葉巧みな話術でそう言わせたか、はたまた渚による
「な、何よ?」
「いや。わかったよ、澪と一緒に食べる」
ここでいつまでもこうしていても
「うん、お願いね」
というようなわけで、俺はどういうわけか澪と一緒に昼食をとることとなった。弁当を持っていくために、俺は一旦教室の自分の席へと帰る。そして自分の席から弁当を取り出し、さあいざ行こうとした時、
『あれ? どこ行きゃいいんだ?』
という思いに至ったのだ。どこで食べるか、そもそも澪が今どこにいるのか、全く聞かされていない。ただ単に『澪と一緒に食べろ』とお願いされただけ。あの姉、肝心なところは何も言っていかないでやんの。そんな渚に
『学食にいるよー』
という内容の文が送られてきた。またずいぶんと手間がかかる場所で待っているものだな。どうせどちらも弁当なんだろうから、手近で済ませればいいのに。そこら辺の空き教室なら、いくらでも空いているのだから。それに別に学食でなくとも最悪な話、どちらかの自教室でもいいしね。ただ、澪の教室でも俺の教室でも、男女2人きりでお昼を食べるのはとても勇気がいるけれど。そんなことを考えつつ、とりあえず合流するために俺は学食へと向かった。
「――あっ、いた」
学食に入ってすぐに澪の姿を発見できた。どうやら
「ゴメンな、なんか……」
俺は座って一番に、澪にそんな謝罪をする。事情が事情なだけに、うまく言葉で説明できないけれど、澪が可哀想でそしてそれを知りつつ何もできないでいる俺がなんか申し訳なくて、とりあえず澪に謝りたかった。
「え、なんで?」
そんな急な俺の謝罪にどこか困惑した様子を見せる澪。澪からすれば、特にその謝られるような覚えがないだろうから、余計にだろう。
「いや、わかんないならいいや。それより食べようぜ!」
まさか本人にその辺の事情を話すわけにもいかないので、俺は適当にはぐらかして、そう澪を
「なんか最近多いよな、こういうの」
昼食を食べつつ、俺はそんな話題を振ってみる。これは主に誰かさんのせいだけれど、そのまさに『おかげ』でこうして
「うん、そうだねー」
「……嫌じゃない?」
「う、うん。大丈夫だよ……」
俺のそんな質問に、澪はそんな風に答える。でもその言い方はどこか引っかるような言い方だった。
『大丈夫だよ』
この言葉が俺にどうしてもムリしている、ガマンしているように聞こえて仕方がない。澪はそういう感情を内に閉じ込めてしまうタイプの人だから、ちょっと不安だった。このまま姉のおもちゃになり続けなければいいけれど……
「なんか嫌なことあったらさ、俺に言えよ?俺がそいつぶっ潰してやっからさ!」
そんな不安が抑えられなくなった俺は、そんな風に冗談めいた言い方で言ってみる。普通に言ってしまうと、空気が重くなってしまうし、これぐらいが澪が相談しやすいぐらいだろう。
「ふふ、ありがとう」
その冗談がウケたのか、ちょっと軽く笑いながらそう感謝の言葉を述べる澪。
「あっ、そういやさ――」
俺たちはそれから
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