39話「聖夜のミスコン」
そして時は経って、いよいよミスコンの時間がやってきた。体育館に着くと、そこには埋め尽くすほどの人が集まっていた。例年を知らないが、流石にこれだけの面子が揃うと、これだけの人間が集まるのだろう。俺たちは間を
「長らくお待たせいたしました。いよいよミスコンが始まります!」
司会者らしき生徒がマイクを持ち、大声でそう言うと野郎共が歓喜に湧く。それはもう体育館中に響き渡り、ちょっとうるさいぐらいだった。俺はそのテンションの高い野郎共に押されながらも、自分なりに盛り上がっていた。
「まずは出場者のお披露目です!」
司会がそう言うと、音楽とともにステージの幕が上がり、ミスコンの出場者がお目見えする。一番左から順に、
「では、明日美先輩から順に自己紹介お願いします!」
司会はそう言って、自分のマイクを明日美へと渡す。
「はい、私の名前は
普段から人前に立つ仕事をしている明日美でも、やはり緊張しているようだ。自己紹介からもその様子が
「はーい、私は
凛先輩は性格通りと言ったところか、あるいは人前に慣れているからか、全く緊張している様子は見せず、いつもの感じで自己紹介をする。ただやめてほしかったのは俺を見つけたのだろう、明らかに俺に向かって手を振ってきていることだ。周りの、修二も含めた野郎共の視線が痛い。しかも囲まれているから逃げることもできないし。凛先輩、ちゃんと自分の言動には責任をもってください。
「こんにちは、
つくし先輩も明日美と同じように緊張しながら自己紹介を無事終えるか、と思ったらお辞儀する際に、自分の持っていたマイクにおでこをぶつけてしまった。痛そうに、自分のおでこを撫でている。だがそれがまた男共の心をくすぐるのか、歓声が上がっている。
「えーと、わ、私は、諫山渚っていいます。えーと、よ、よろしくおねがいします!」
渚すごい緊張してる。どこか声も震えているし、言葉も多くは出ない。
「っわ、わ、わわ、私……は……い、いい、諫山……み、みみみ、澪です……! よろしくおねがいします!」
声を裏返ってはいたが、なんとか自己紹介自体は成功。俺はホッと心の中で安堵する。周りの野郎共もつくし先輩みたく見守るような温かい目で澪を見つめていた。とりあえず、反応は悪くないようだ。
「あっ、えーと、汐月……
そして汐月の番が回ってくる。あの一件のこともあってか、どこか気になってしまう俺がいた。諫山姉妹ほどではないが、ちょっと緊張した様子の汐月。でも割りと口数は多く、慣れればイケそうな感じがする。案の定、周りの歓声は澪の時よりもすごく、明日美に匹敵するほどだった。ただやはりそれは苦手なのか、本人はそれを受けてちょっと引きつった表情を浮かべていた。
「わっ、私は
どうやら岡崎は緊張していないようで、前の3人に比べたら、遥かに平静としていた。意外、というのも変だけれど、こういうのは大丈夫らしい。
「
さてこの中で、俺的には謎枠の委員長が自己紹介をする。平静を装っているように見えるが、足はしっかり震えている。委員長でもやはり緊張するとなると、やはり野郎共の視線によるプレッシャーは相当なのだろう。それに前のファンクラブ持ちの女子たちの反応を受けてからじゃ、さらにプレッシャーになるわな。そんなことを思いながら、その他俺の知らない女子たちの自己紹介が終わり、司会者へマイクが返される。
「みなさま、ありがとうございました! では続いてアピールタイムに入りたいと思います!」
司会者がそう言うと、出場者たちはステージ脇へと姿を消していく。どうやら、何か他の衣装に着替えるようだ。当然、その着替えの間は暇が出来てしまうので、埋めなければならない。だがそれをまさかの生徒会の人間が芸をする、という訳の分からない時間埋めをすることに。所詮は素人の芸、面白いわけでもなく、結局野郎共からヤジが飛ぶ。可哀想だとは思うが、力不足としか言いようがない。それなら、なんかの部活の人間呼んで来た方がよっぽどいいのに、と俺は思う。司会者もその状況にしびれを切らしたのか、なだめるようにフォローを入れながら、時間を稼いだ。
「大変長らくお待たせいたしました! ではアピールタイム行きましょう!」
そしてそれから数分、ようやくアピールタイムが始まる。まず現れたのは、さっきの自己紹介のトップバッターであった明日美だった。その衣装はなんとウェディングドレスだった。自分の姉ながら、ぶっちゃけ惚れてしまいそうなぐらいその美しさに魅了されていた。あれだけ自己紹介で騒いでいた野郎共も、今回ばかりは静かに黙ってそれに見とれているようだ。そしてやはり俺の予想通り、それからは自己紹介した順に次々と登場してくる。皆どれもとても綺麗で美しく、俺たちの心を奪っていく。これは激戦になりそうな予感がする。それから一通りアピールタイムも終わり、ついに投票タイムになった。会場にいる全員に、出場者の名前が入った投票用紙と鉛筆が配られ、シンキングタイムに移る。周りを軽く見てみると、やっぱり皆誰にするかを悩んでいる様子だ。ちなみに、修二はもらってすぐに迷うこともなく書いたようだ。たぶん、それは明日美だろう。こいつ一応ゾッコンだし。
「おい、煉、お前どうすんだよ?」
そんなことを思っていると、修二がニヤニヤしながらそんなことを訊いてくる。
「ああ、考え中だよ」
「この面子だもんなー悩むのもわからんでもないわ。ゆっくり考えろよ」
実際のところ、俺はかなり悩んでいた。これだけ勢揃いした美女たちを前に、誰か1人を選ぶというのは中々難しい。それに、出場者はほぼ全員が俺の関係者。つまり、投票した後のことも考えなければならない。後で『誰にした?』と訊かれて、気まずくなることも考慮に入れなければ。さて、本当に誰にするか――
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